私には兄が一人と弟が一人居ます。兄は私より二つ年上の大学生ですが私と弟と並んでしまえば三つ子にだって見えなくもないのです。そして何よりも、私は彼を誰よりも深く深く愛しています。家族の生易しいそれとは訳が違う。私は、私は心から兄に、里於さんに恋をしていました。


「おはようございます、里於さん」
「おはよう、アイギス」


朝からいいものが見られました。彼は滅多に笑うことがありませんが、こうして何気ない会話の中で垣間見ることが出来るのです。そして何よりも、彼は私に対しては穏やかな声で話してくれるのです。それが妹という立場で得た特権ならば、嬉しくもあり、また苦痛に感じることもあります。
私たちよりも出掛けが遅いにも関わらず毎日欠かさずに作ってくれる朝食だって全てが愛おしいのです。だから何時、胸に秘め続けたこの幼い感情が爆発するか分かったものじゃないの。


「美味しいです」「美味しいなあ」
「…着替えてから食べろ、綾時」


さて。そんな私の秘めたる恋情には一つの障害があります。兄だけでは無く、私には弟も存在すると言いましたが、彼と私は全く対照的なのです。彼もまた私の大切な家族の一人であり、あの「生易しい」家族愛の対象でもあり、双子という精神的肉体的な片割れでした。
ただ一つ。綾時くんもまた、私と同じように自身の兄を純粋に好いている事が無ければ、きっともう少しだけ荒波立てずに平穏に過ごせていたかもしれない。


「綾時くん、何時から居たの」
「何時も何も、ずっと此処に居たよ」
「アイギスも綾時も、箸で攻防するのは分かったから先に食べて」


里於さんが言うのなら仕方ないので最後に綾時くんへ一睨みしてから再び口を動かします。綾時くんも私に普段は見せる事が無い反抗の目で見つめてきますが、これでも私は姉なのです。その威厳を捨てようとは思わないのでただひたすら朝食を食べ続けます。
私も綾時くんも、想いの強さなら同じくらい強いのです。だからお互いに報われないことも理解しているし抜け駆けのようなことをしない約束も今まで破ったことはありません。一見傷の舐め合いのようでもあるけれど、でもこんな支え合いでもなければ、多分、私は。私たちは、堪えられないの。

私と綾時くんは、モノレールを乗り継いだ先にある人工島に建設された高等部に通っている。今年、2学年目になり、私は友人の風花さんに勧められてメカ部に入ることになった。
綾時くんはクラスメイトの順平さんと仲が良くて相変わらず女の子の方からの人気は絶大みたいです。形振り構わず女の子に声を掛けるので軽派に見られがちだけど、私は行動に隠された心理を分かっているから何も言いません。


「里於、行ってくるね」「里於さん、行ってきます」
「二人共、気をつけて」


今日も優しいお兄さん。そして私の大好きな里於さん。家族として、好意を寄せる相手として、沢山の思いが交錯して絡み合うからもがきたくなる時もある。私だけじゃない、綾時くんも同じ。とても辛いけどとても満たされます。こんな日常が何時までも続けばいいのに、と、隣を歩く綾時くんに目で訴えかけた。
…双子は便利だ。言葉を言わずとも瞳のやり取りだけで相手が何を言いたいか分かってしまうから。


「そういえば夜中に里於の寝言を録ったんだけど」
「もちろん赤外線であります」
「ですよねー、はいじゃあ携帯出して」


携帯の赤外線ポートを向かい合わせながら歩く私たちはとても怪しい気がしました。しかし里於さんの寝言という貴重なアイテムを取り逃す失態はしません。
ああ、独り占め意識の無い弟で本当に良かったです。一番の恋敵であり一番の理解者な彼と、今日も学園までの道を自分たちの兄の寝言をBGMにして歩いていくのです。


(いつか私の、僕の、愛を受け取ってほしいよ、お願い)



愛がくるしい




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