素直に、好きだ、と伝えることは悪い事なのだろうか。きっと必ずしも良い方向に傾くとは限らないというのは理解しているし、今の場合は相手の発言する意思をまるで無視だった。抑えが利かず弾けたように好意を口にした自分と、そんな自分とは対照的に静かに彼の髪を弄ぶ独眼竜と。双方からの意思表示に、やはり戸惑ってしまっただろうか。それとも、餓鬼の戯言だとあしらうだろうか。


「俺も多分、二人が大好きだ」
「…そのような答えを、某は望んでおりません」
「全くだ」


珍しく意見が一致したじゃねぇか真田。云う割にさほど嬉しい様子は見せない政宗殿の顔は、違和感を感じる程無表情だった。嗚呼、この方も本気なのだ。自分と同じように心から愛しく想いを募らせてきた一人にすぎない。そしてどちらも選ばなかったこの男に対して納得し切れずに不満ばかり溜め込んでいる。想像するのはとても容易い。だってそれは自分にも当てはまる事であったから。
月が綺麗だねぇ、と声高らかに云った。話の突飛な方向に向いたので政宗殿が手の中に収まった髪を引っ張っていた。痛い痛いと涙ながらに抗議するも、政宗殿の顔は変わらずとても真剣だった。


「もし、の話になるけど。多分な、刀も鉄砲も無かったら、俺はあんたらにもっと良い返事が出来たと思うよ」
「だから、それは、俺達が終わらせる」
「…先を変えても」


失ってしまったものは大きくて、それを俺から奪った今の世の中が赦せなくて、そんな場所に身を投じる二人には、やっぱり近付きすぎたく無い。贅沢な話、二人に想われるこの曖昧な感じが良い。

何処までも平穏を望んだ人間の手に掴まれることすら出来なかった。こちらから掴んでやることも拒まれる。
自分はまだ未熟だから、そんな反応に対しての無念だとか憤りだとかを発散する術を学ばなかった、教わることがなかった。戦う上で必要が無かったからだ。

彼は多分、このような人間性の欠如が嫌なのだ。ならきっとこの先も、彼が自分を選ぶことは無い。一度欠けてしまったものを戻すことは容易では無いから。


「だから早く、いい人見つけてくれよ」


困った様に笑うのは、何時しか彼の癖になっていた。



泣けば済むと思ったか
(莫迦な奴め)




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