(学園仕様)





「慶ちゃんちょっといらっしゃい」


昼下がりの屋上でそれぞれが好きな過ごし方を満喫していた頃、慶次は佐助に手招きをされ呼び止められる。伯母手作りのお重に入った弁当にありついていた矢先のことだった。
お重を抱えたまま引き寄せられたように佐助の傍に腰を下ろす。隣では自分と同じように手作りの弁当と購買で買ったと思われる苺牛乳を交互にかき込むようにして食べている幸村もいた。佐助が度々口に付いたおこぼれを拭ってやる姿もまた日常の中の風景に過ぎない。


「何?」
「動かないでねー」
すると素早く自分の背後に回って何かカチャカチャと用意する音が聞こえた。動くなと言われたので首だけ後ろに回そうとしてもこの角度からだとなかなか見えないものだ。何をされるのだろうと不思議に思っていると、隣の幸村から「おぉ!」と感嘆の声が上がった。ただ慶次自身はやはり見えないので何をされているのか全く見当もつかなかった。
近くに政宗と元親が集まってきた。慶次と佐助の行動を見た政宗の顔は、面白いものを見つけて茶化してやろうとしているそのままの表情だ。顔に出やすいのなんとかしろよ、と言いたげな元親は佐助の手際の良さに感心しているらしい。


「同級生に服繕ってもらって良かったな、慶次」
「政宗殿、そのような皮肉めいた言葉は如何なものか!某もいつも佐助に繕ってもらい…」
「所謂佐助ママ」
「刺すよそこの二人」


ああ、成程。どうやらワイシャツの後ろの裾が破れていたらしい。勿論心当たりはある。塀を登ったときに引っ掛けたような衝撃を感じた、と思い返した。
塀に登る経緯、なんてものは此処に居る一同が容易く想像出来るものだった。きっと怒らせたら怖い伯母に、慶次が何かの拍子でスイッチを入れてしまったと思われる。慶次が追い掛けられる姿は幾度も目にして幾度も巻き込まれた。


「出来たよ」
「佐助は本当に何でも出来るんだな」
「なあ便利屋さん、俺にもBoxlunch作ってくれよ」
「あんたには犬のご飯詰めてきてあげるよ」


変に絡む政宗をシッシッと追い払う仕草を見せる佐助。政宗はいつも佐助に構いたがる。慶次がそれを「愛情の裏返しなんだね」と喩えると、二人してすごい形相をして全否定されたことがある。だから口には出さないけど、幸村を交えても三人はいつも一緒だなと思う。

そういえば今日は元就が居ない、と屋上に視線を巡らせる。でも、居ない。可笑しい、と首を傾げていると元親が言う。


「今日は曇ってるから机で伸びてる」
「あ、そうなの…」


みんなが揃わない日はどことなく物足りないなあ。誰にぼやくわけでも無いけれど、お重の中に残ったおかずを口に運びながらぼんやりと思う。横では政宗と幸村がぎゃんぎゃんと騒ぎ立てている。

昼休みが終わったら元就に何か甘いものをあげよう。お日様代わりには成れないかもしれないけど、少しでも活性化してくれれば宿題手伝ってもらえるかな。文字通り甘い考えを浮かべていると苺牛乳の空パックが後頭部に当たった。どうやら政宗と幸村の暑苦しいバトルの合間からのとばっちりだった。

(いつもと変わらないって素晴らしい)



傍観者の思うこと




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