繋がっている。ただ呆然と思っただけのことが、まさか自分には探索能力みたいなものが本当にあったのかもしれない。だとすれば之は実に凄い発見だ。人類の歴史を以ってしてもこんなに伝達力は発達しなかったはずだ。
これが真っ直ぐに続く廊下の果てに見知った姿を見つけたと同時に僕が思ったことだった。愛嬌を兼ね備えて話し掛けてきてくれた女の子達に笑顔で応えながらその背中を追う。近付くにつれて彼が体に不釣り合いな大きな段ボールを抱えていることを知る。さほど苦では無いといった様子でよたりよたりと肩を揺らして歩いていたから流石学年トップ、と的外れなことを考えて感動してしまうのだ。

隣に立っても存在に気付かれなくてイヤホンから流れる音楽のせいかと思った。だから普通に興味を持って左耳に掛かったそれを外してそのまま右耳に近付けた。鼓膜を揺らしたのは軽快な音楽に合わせた複雑な羅列の英語。僕には洋楽の良し悪しは解らないけれど彼が愛聴しているのだからそれだけできっと素敵なんだろう。
彼は口を開けたまま驚いた顔でこちらを見ている。突然左耳の音楽が止切れて外界との接触を強いられたからかもしれない。隙間から見える赤い舌が少し色っぽい。廊下の中央で非常に邪魔くさいと思われる立ち位置で僕らは暫く硬直していた。


「…返せ」
「ご、ごめんね」


言われた通り彼の耳に左のイヤホンを返した。それを見つめる彼が何を思っていたのか僕には解らない。音楽を聴くことは止めるのか、右耳のイヤホンも外して何時ものように首から下げるスタイルになって見慣れた姿に少しだけ嬉しくなった。笑っていると気持ち悪い、と怪訝そうにあしらわれてしまったけれど。
再び歩みを進めはじめた彼に合わせて自分も歩く。聞けば大西先生からの頼まれ事で図書室に新調した本が入ったこの箱を運んでいる途中だったみたいで、少し失礼して中を覗いてみると日焼けで色褪せすらしてない綺麗な表紙が並んでいた。だけどこれだけの冊数が入っていれば自ずと質量もかなりのものになっている筈なのに彼の表情からだとそれが全く窺えない。見た目に反して凄いワイルドだ。でも此処はやっぱり、この状況ならすることはひとつで。


「僕、持つよ」
「大丈夫」
「いいからいいから」
「ちょ…っ」


その直後。底を支えようと手を引っ掛けたら思いもかけず彼の手に自身のそれを添える形になった。あ、柔らかくて温かくてどこか懐かしい。思った次の瞬間には床に本が散乱していた。僕が手に触れてしまったことで、彼も反射的に手を引っ込めてしまったらしい。支えを無くした段ボールが重力に逆らうことなんて有り得ないわけでそのまま派手な音を廊下に響かせ落下した。本当に、一瞬の出来事だった。


「何、してくれるんだ」
「僕のせい…ですよね、ごめんなさい」
「もういい…」


屈んで本を拾い始めた彼の頭を見て、きっと怒ってはいないのだと思うけどそれに近い何かを醸し出していると感じてしまう。本当に申し訳無くて僕も屈んで同じように床に落ちた本を箱に詰める。
すると先ほど声を掛けてきてくれた女の子達も手伝うといって幾つか拾ってくれた。有難う、今度駅前にあるオープンカフェでお茶でもどう?と何時もの様に声を掛けていたら段ボールを持ち直して立ち上がった彼の姿。あれ、なんか、醸し出していた何かが一層濃くなった気がするのは僕だけ?


「僕も行こうか?」
「いい、平気」
「でも、さっき、手が」
「本当に平気だから。悪かったな」


(…こっち、向いてくれなかった)

さっきよりも大きい歩幅で遠ざかる彼の背中は最初に見つけた時よりも小さく見えてしまう。横で好意を持って話を弾ませてくれる彼女達の相槌も何処か生返事になりがちで女の子相手になんて酷い態度なんだとも思うけどそこで初めて自分の気持ちが沈んだままだと自覚した。それと多分だけど、僕は凄くもどかしくて凄くじれったいんだと思う。もう少し、あとほんの少しだけでいいから時間の流れが消えてあの人肌が触れる瞬間が長かったらと、今では叶いもしない願いをひたすら望んでいた。



あの瞳が僕を苛む




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -