(主+順+友)





ずるいよなぁ。誰とも無く目の前に居る少年に向かって呟いた。当の本人は頬杖をついたまま、そう?と真面目な顔で言った。またそんな仕草も彼という型にはまっているから余計悔しいのだ。
別に集っているつもりで机を囲んでいる訳ではない。羨ましい、とは思えど机の中の許容量を大幅に超えた数のプレゼントを頂戴するつもりは端から無い。気になっているのはそれら全てを丁重にお返しすると言ってのけた少年の考え。世の男共にしてみたら机一杯のチョコレートなんていうのは最早願望に違いないのにこいつはそのドリームランドを自らの意志で手放す意向のようだ。


「正気じゃねぇ」
「いっそ女子の怨念で窒息してしまえ」
「甘いものは好きだよ。でも、駄目」


けじめだから、と沢山のチョコレートを見つめながら呟く。気のせいだったかもしれないけど、それはまるで自分に言い聞かしていた。
しかしこんな量を一人一人にご返却なんて無理に等しすぎる。堂々と自己主張の激しい物もあれば、非常に謙虚で無記名の物もある。寧ろ本人からご親切に返して頂くこと自体、女の子達にとっては慕う想いに余計火が付いてしまうに違いないのに。そんな複雑なオトメ心理を理解していないところが本当に惜しい。ただそこが補い不足だとしても好きだと想いを寄せていただけるなんて。友人としては誇れるのに同性としては羨望を抱いてしまうのは、どうやら隣の健二君も同じようだ。


「勿論二人は手伝ってくれるだろ?」
「その笑顔が憎いんだよ!」
「うんでもなんか逆らえん」


そのあからさまに作りましたな爽やか過ぎる笑みは普段のキャラでは似つかわしく、また絶対的な従順を求める威圧感も背負っていた。薄々予想はしていたけれど、まさかの的中。渡した筈のチョコレートを逆プレゼントされる女の子達の様々なリアクションを想像しては、どう足掻いても自分達へのとばっちりは避けられないことを予期して憂鬱になる。早く放課後になれと心から願った。
教室に流れる喧騒の中に予鈴が静かに響く。それぞれが個々の席に戻る一連の景色の中、彼がいつも手を忍ばせる指定席ともいえるポケットの膨らみに気付く。
それはお世辞にも綺麗とはかけ離れた質素な包装を施されている、何処にでもありそうな市販のチョコレート菓子。特にそれは彼が度々好んで食べていた銘柄。無造作に詰め込まれたそれは他との扱い方の比率があまりにも違い過ぎる。彼は甘い物を好んで食べるし、血糖値を上昇させるの為の物かもしれない。でも机に入ったものたちとは勝手が違うような、本能的に「彼がそれを誰かへ贈る」ことを知っている。


「里於、なあ、そのポケットの」
「学校でチョコレート食べても平気だろうか」
「あ、ああー、うん。バレなきゃ平気じゃねぇ?」


これは、意図的に遮られたのか。質問の内容にも少々違和感を感じる。胸に異物感に似たもどかしさを感じつつも、俺はそれ以上訊くこともなく口を噤んだ。そんな俺にあいつは、さも満足したように目を細めてふわりと笑っただけだ。

そして結局俺達の放課後は自由だった。あいつが何時の間にか居なかったんだ。友近は面倒を避けられたと伸び伸びとしていたけど、俺はどうしてもあいつを探す気になれないのだ。最後に見た机の中のチョコレートは相変わらずだった。


(誰も居なくなった放課後の教室で、一番前の窓際から二番目の席。そこに座ってあのチョコレート菓子を不気味なほど静かに摘んでいるあいつを想像することすら出来ないとは)



縋る人




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