(綾主)





「女の子がとても柔らかいって、君は知ってる?」


触っただけで溶けてしまいそうな程、まさに極上のマシュマロなんだ。それにとても甘い匂いがして、くらくらする。同じ人間なのに性別が違うだけでこんな差違があって、まさに神秘だよね。神様が産んだ生命の特権だと思わない?

自分は、言われた言葉の半分も理解出来なかったので曖昧な返事しか返せない。望月が話した言語は何だったのか、恐らく日本語であることは間違い無いのに理解力の拙さが此処で露わとなった。でもきっとこれは、女性を喜ばせる技術を持った彼ならではの持論なんだろう。
イヤホンから絶えず流れる洋楽に耳を傾け続けた。隣の少年は人が話を聞かずとも一人で話し続けている。表情は依然としてへらりと破顔したままだった。


「あ、でもね、その特権と、人が誰かを恋うことは、全く別物だった。今まではそれも神様が授けたものだと思っていたのに。差違があるからこそ人々は結ばれると思っていたのに」


ずしり、と肩に重量感を感じたので後ろを覗き見ると、何時の間に移動したのかわからない望月が被さるような形でしがみついていた。ああもう鬱陶しい。手当たり次第に叩いてみたり押し退けてみたりしたのにそれは頑なに拒否された。同時に外界との接触を遮断していたイヤホンまでも取り上げられ、彼の行動にほとほと困り果ててしまう。


「きっと僕は探していたんだ。君の髪や肌や匂いだけを。女の子、じゃなくて君を。
ね、僕の心からの求愛を受け取ってよ」
「お、前な…」


ああ、熱い、熱い。きっと今、自分の顔は飛び抜けて赤くなっているのだろう。あまり想像したく無いのに、後ろの望月が自分の耳朶を摘んで、暖かいねぇ、とからかうから八方塞がりだった。



一つになりたがった心臓







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