(天→主/10年後、Pts風味)





例えば、青色掛かった頭髪は最初もの凄く目を惹いて。何時も何処を見つめていたのか分からない瞳は綺麗なホワイトグレー。少し猫背気味な背中があの頃はとても大きく見えていた。背も力も全てが劣っていたあの頃は毎日が早く過ぎて行けば必ず追い付くだろうと思っていた。だから少し。背伸びをしてでもあの人達と対等で在りたいと切実に願った。
時を経てから考えてみるとあれは単なる子供の強がりだった。でもあの頃に起きた総ては自分の現実で在り日常で在り、だから尚更自分は自立しなければならなかった。只、役に立ちたかった。誰かの為に在りたかっただけだ。でもそれを成そうとしたのにあの人は居なかった。折角の決意が台無しになったよ。


「今はどうなんですか」
「もう忘れたさ。声も顔も」
「…それ、嘘ですよね」
「おい、洵」
「はは、解っているなら訊かないでほしかったな」


本当なら僕等と彼は今も他愛もない会話を続けていた筈だったのに何処で何を違えたのか彼は彼を知る人々の記憶の中だけに住まうことになってしまった。でも記憶は必ず、ふとした時に手放すことになることだって有り得る。もちろん歳を取ればそれは当たり前になる。
忘れる事が罪ではない。罪を畏れて前へ進めないのならそれは単なる世間知らずに過ぎない。この先生きていくのならそれも必要なことだ。でもいざその時が訪れたら、あの人は悲しんでくれるでしょうか。(それは無い、かな)


「あ、これ、真田さんに内緒ね」
「どうしてですか」
「あの人、多分泣いちゃうから」


口の前で人差し指を立てて、内緒、そう釘を刺した。普段芯が強いあの人でも、過去の話には滅法弱い。そう、だから真田さんとは思い出話に花が咲かないんだ。しんみりとした空気は似合わないと何度も言ってきた筈なのに。

年端もいかない子供の頃に力を得た。そして現実から目を背くことが出来なくなった人々が集まり、良いも悪いも沢山の事を経験して、そのまま大人になってしまった。そんな僕等は、あの頃に置いてきてしまったものも沢山ある。後悔はとうの昔に終えたこと、でもただひとつだけ嘆かせて欲しいと云うならば。


「彼を、助けてあげられたなら、君たちが力を得ることも、無かったのにね」



偽善で世界は救えない




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テーマ「人外ファンタジー」
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