(友+主)





その日親友は俺に、喉が渇いた、と小さい声で訴えた。いつもと同じ、何処か気迫の無い空っぽの声。でも、まるで、声帯がか細くなったような掠れた声色だった。そして確証が有る訳でもないのに、俺はその訴えを訝しんだ。訝しみながらも売店で売っていた清涼飲料水を渡すと、今も変わらない柔らかい笑顔でありがとう、そう言っていた。

数日後、次は食欲を無くした。三色コロネ、かにパン、メロンパン、今挙げた全ては親友の好物であり俺はその全てを餞別として差し出した。だけどあいつは言う。ありがとう、でも、要らない。三種のパンの袋に視線を移すこともないまま再び机に伸びる。そしてその声は未だに掠れたままだった。

そしてまた日が経った頃。たまたまあいつの様子を窺えば、その肩はかたかたと揺れていた。季節的にあまりにも不釣り合いな反応を怪訝に思い声を掛けてみると、一言、寒いと言った。手先も足先も脳天から冷えるんだ。冗談ではない反応に右手を握るとひやっとする。それでまた俺は馬鹿だから大丈夫か、なんて聞いてしまうんだ。そうすれば自ずと返ってくる言葉は肯定的だというのに。



「……なぁ、何なのお前。病気?」


ずっと避け続けていた問いをこの日やっときりだすことが出来たと思えば、瞬間的に違うと返答が来た。間髪入れない意地らしさがこいつらしい。触れてはいけない場所なのだと分かっていたはずだったのに、俺は我慢ならなかったのだ。ゆっくりと。でも着実に。人の部分を失いつつあるこいつの行く末が猛烈に不安だったから。


「友達でも、親友でも、どうにもならない事なのか、成瀬」
「…友近、はがくれ行きたい」
「え、あ、はがくれ、ね」


以来ずっと空腹を訴えなかったのに飲食店に行きたいと言い出されればもう何も言えないだろう。本当に憎たらしいほど人のかわし方が上手だ。だから放課後、何があってもこいつをあの店に引っ張って行くだろう。おそらくラーメンではなく、裏メニューの丼物を頼むことを予想して。


「春は来てくれるだろうか」
「春は訪れるものだろ」
「良いこと言うじゃん」
「風情があるだろ?」
「でも、友近」


(来るべき日に、春は迎えに来るんです)



気づかないで愚かな僕




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