(綾+ハム)





「愛してる」
「そばにいたい」
「君を失いたくない」


グラスから溢れ出る液体のように、彼を苛む感情の波が、とぷとぷと音を立てて心を濡らす。彼自身も抑えが利かずに戸惑っている様子が、とても拙い。こうして私に情愛の慕を示すことでしか、彼の激情を緩慢には導けないのかもしれない。
愛に飢えている。私はそれを知っている。何故か?答えは、彼自身がくれた。


「かわいそうな、綾時くん」
「…えっ?」
「真実から目を背けちゃだめだよ」


寒々しい色をした彼の頬を、私の両手で包み込む。部活で培った健康的な肌色と、生気のない不健康な肌色との境目がくっきりとわかる。


「つめたくて、さみしくて、くらいばしょでとじこめられていたきみを、わたしはずぅっとむかしからしっている」
「ねぇ、なにをいってるの?」
「なんどもなんどもたどってきた、このいのちのこよみのなかで、あなたはわたしたちをかわらずあいしてくれた」
「いみが、わからない」
「いいえ、わかっているわ。りょうじくん、あなたはほんとうにかわいそうね」


嫌な汗をかき、乱れた鼓動に息を詰め、頭を抱えて地に伏せた姿は、とても滑稽だ。しかしもう少し、あと少しなのだ。
愛に飢えることも、自分が存在するだけで罪の意識に囚われることも、もうやめにしよう!

私の中で息をしているもう一人の「私」が、彼を見つめている。私が手を伸ばせば「彼」も手を伸ばす。それでも、可愛いあの子に触れようとしても、触れているのは私だけだ。

りょうじ、と紡いだ唇からは、音はない。話そうとしても、意思を伝える術を、今の「彼」には持たされていないのだ。
だから私は代弁する。宇宙の総意を、私たちがくだす愛しい我が子への残酷な判決を。


「もう、生まれてこなくていいんだよ」


(永遠の死の中で、おやすみ、綾時)



芽を潰す



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