(4主+エリ)





彼のことを知ったのは、あの町に引っ越してから少し経った頃だと思う。前触れなしのことだったので、曖昧になりつつある記憶だけが頼りだ。

初めは、天城を助けた日の夜だっただろうか。夢を見た。
同じ年頃の少年少女が数人。今の俺たちと重なるような気がしたけれど、その日の夢はそこでフェードアウトし、それが何を意味するのかさえ知ろうとも思わなかった。

しかしその日を境に、俺たちが仲間を助け、真実へ近付くことに比例して、夢に現れる人数も増えていった。同学年の女子に、小学生、果ては犬までいたような気がする。
そして朧げだった夢も、徐々に輪郭が浮き彫りになり、明確なものとなっていく。そして、彼らの手に握られた銃の存在に、人知れず慄いた。
第三者として、まるで映画を鑑賞するようにその光景を覗いていた(夢を見る、よりもこう言ったほうが表現として当たり障りがない)俺は、いつか彼らに殺されてしまうのでは、なんて脅迫概念じみたものすら抱くようになる。

そういえば、仲間に相談するという選択肢はなかった。今思い返すと、いくらでも機会はあった筈なのだが、それをしなかったのは何故か。
…そうしない、そうさせまいとする圧力に、抗おうとも思えなかったからに違いない。お前ひとりで成すべきもう一つの真実、だと。

それも、あながち間違った解釈でもなかったようで。足立を追いつめ、霧の大元を叩き、町の安寧秩序が保たれたその日。俺は最後の夢に落ちた。


「特等席でのご鑑賞は、お楽しみいただけたでしょうか」
「…ああ、とてつもない超大作だった」


銀色の髪の、青を纏った女性は高貴な物腰、それでいて優しく笑った。その顔には見覚えがある。扉の向こうの気高い彼女の面影だと理解するまで、少し時間を要してしまったが。
皮肉混じりの返しをしても動じない。余裕の違いというものを見せられて、少し拳を握り込んだ。


「貴方の心境に、少し変化を与えたかったのですが…」
「充分過ぎる。お腹いっぱい、ご馳走様。それで俺は?どうしたらいい?」
「あら、案外潔い方ですのね。もう少し足掻いて下さってもよろしいのですよ」


そうさせなかったのは、他でもなくあんただろう。喉元までせり上がった言葉を胸に押し込み、握り込んだ拳の力を緩解させる。もう、足掻くことなんて出来やしない。
俺が見た全てが、彼ら…いや、「彼」の全てではないことくらいわかっている。飽くまでも俺は、散らばった断片を拙いながらに拾い上げたまでのこと。
それでもその僅かな断片の中で見たものを、はいそうですか、とスルー出来るほど俺は大人じゃない。自分たちと同じ状況の下で、俺とは違う道を選び取ってしまったその姿は、なんとも後味の悪い。


「ですが…貴方の物語が、まだ終幕を迎えていない」
「えっ?」
「来るべき時を迎えたら、貴方自身の意志で、どうか扉を開いていただけますか?」


渡されたのは、群青色の鍵。見覚えのある、でもこれは全くの別物。開くか開かないかは、俺次第。


「貴方で良かった」


そこで、俺の最後の夢見は終わった。目に入るのは、見慣れた木目の天井だ。敷布団の感触は、この1年ですっかり馴染み切っていた。

よれきった布団にすらそう思える、平和で幸せな日常に潜む薄ら暗い影。それは、俺たちの物語がまだ終着点に辿り着いていないことを示していた。
俺にしか成せないことをする前に、皆でやり遂げなければならないことがあるらしい。それらを教えてくれた彼女の思いに応えられるよう、それまではこの鍵をしまっておくべきなのだろう。


そうして、三ヶ月後の3月20日。死と隣合わせ同然で戦ったマーガレットから聞かされた話と、俺たちが真に立ち向かうべき相手との対峙を迎えた後の、21日午前0時。
そうして俺は、扉を開いたんだ。



あいにきました



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