(綾主/※温め注意)





二人だとさすがに狭いと感じるベッドで、ごろりと寝返りを打つ。すると宇宙の様な蒼に染まる瞳と見事に視線がぶつかった。互いに言葉を交わすこともしない、ただ見つめあうだけの時間は、どうしようもなく終わることのない永久に感じた。
部屋に響く時計の秒針音が静寂を示す。機械が動いているのなら影時間は明けている。時の流れを忘れてまで行為に没頭していたというのだから、自分の醜い性欲に背筋がぶるりと戦慄いた。


「なんか、ファルロス思い出す」
「僕は、望月綾時だよ」
「わかってるって、」



夢枕に現れる癖は変わってないだろう、とは言わずにじっと押し黙る。この目は確かに綾時だ、望月綾時。あの死神の子供ではない。でも確かにこいつは、自分が孕んでしまった滅びだった。
もぞりとベッドに潜り込んだ綾時の行動に、はて、と首を傾げていると、下腹部の辺りをさすられている。突然すぎた歯がゆさと擽ったさに身を捩ると、逃げられぬよう腰に抱きつかれる。起き上がることも出来ず、綾時の行動に黙って従うことしか出来なかった。
まだ後処理も終わっていないべたついた体でお互いにくっつき合って。汚れた身体に不快感はあった。しかしそれに劣らぬ充実感といったら。下腹部をしきりにさする綾時の掌はひやりとしていた。


「僕は、此処に居た。10年間、ずっと君の此処で君と共に居たというのに。産まれてしまった僕は行き場も無く消えて逝くんだろうね」
「りょ、じ」


ああ、べろりと舐められた。臍から始まり太股の付け根まで広範囲だ。生暖かい舌の感触がたまらなかった。反射的に思わず溢れ出た生理的な涙が一粒二粒と頬を濡らす。それでも彼は止まらない。


「きっと僕は、此処に還ることも許されないんだろうね」
「…お前は、馬鹿だよ」
「里於くん、」


彼の頭を優しく抱き込んだ。その行動には、多分僅かながらに母性も含まれていたかもしれない。有りもしない自分の子宮に還りたいと夢を見る我が子が、可哀想だと思ってしまった自分を後悔する。
もう、だめ。自分もとんだ偽善者になったものだ。成瀬里於と望月綾時の関係には戻れそうにもない。だって、彼と世界を秤に掛けたら、どうにも今と同じく彼の手を取り抱き込むのだろう。

お望み通りに彼を還してあげられたならば。狭い膣を押し広げ、さぞ居心地の良いと思う子宮の中で眠らせてあげられたならば。そんな非現実を理想と考え始める自分も、彼からすれば充分に気の毒で可哀想なのだ。


「君の音が聞こえるんだ。ああ、懐かしいな。なつかし、くて」
「もう、何も言うな」
「里於、りお、」


まるで助けを乞うような声は耳を塞ぎたくなったけれど、自分はこの痛みを共有しなければいけないのだ。孕んでしまった罪と産んでしまった罪は深くそして重かった。いっそこのまま体液まみれの身体と共にどろどろに溶け合えたらよかったのに。心と身体が離れないように繋ぎとめてやることしか出来ない自分は無力だった。



収縮する青




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