(綾主)





今日は、綾時と帰る日だった。
以前から一緒に帰ろう、としつこくねだられ、それなりに上手くあしらってきたつもりではあったが、さすがにいつまでも放置しておくのは酷だろうと思い、こうして肩を並べるまでに至っている。
どこか寄り道する?と訊いてきた綾時の顔には、寧ろ寄り道したいんです、という表情を隠しきれていなかった。
そういえば、順平からワックのクーポン券を何枚か貰っていた。期限も今週末までだった。ちょうど良いので巖戸台でいい?と提案すれば、満足そうに大きく頷いた。

そうして時刻は7時を少し過ぎた頃。この時期になると日が落ちる時間の早さを実感する。辺りは会社帰りのサラリーマンや、自分たちと同じようにブラついている高校生が多く見られた。
寮まで送るといって聞かない綾時との帰路。駅前近くに並んだ建物による光の連鎖も途絶え、閑散とした神社の階段下まで来たところで、少し寄っていこうと言い出した。

満腹感もそこそこに、秋の空気を肺一杯に吸い込み、思いきり吐き出した綾時の口からは、白い吐息と共に気の抜けた声も押し出された。


「誰かと食べるご飯って、すごくおいしいんだね」
「なんだよ。まるで初めてのように言うんだな」
「だって実際、そうだったから」


僕の親、共働きだしね。笑った顔はそのままに、地面を見つめる綾時の横顔は、少し寂しく思えた。
何か言葉を掛けてやるべきなのだろうか。だけど掛ける言葉は見つからない。同じ境遇だから自分もわかる?そんなことを言えば、逆に気を遣わせる羽目になるだろう。
口だけが中途半端に開き、燻る思いを言葉に出来ないでいると、こちらのことなんかお構いなしに小走りで砂場に向かう綾時。自由奔放で無邪気な姿に、この砂場はよく似合う。


「ねぇ、漫画でよく見るお城とか出来ないかな?」
「ここの砂、少し細かいから…それにこの時期は砂が乾燥してるし、多分無理だ」
「…そっか。残念だなぁ…」


そもそも、道具も無いのに出来やしない。綾時はしゃがみ込んで、名残惜しそうにぺたぺたと砂を弄んでいる。手が汚れることもお構いなしに。
そんな綾時の隣に、ゆっくりとしゃがみ込む。それから、ざらっとした砂の上で、右手の人差し指を動かすと、はっきりした凹凸が出来上がる。


「でも、こういうことは出来る」
「わぁ…!」


我ながら、なかなかの出来だと思う。やがて砂の上には、今こうして隣に寄り添う綾時の、笑った顔が浮かび上がっていた。チャームポイントであろう泣き黒子も忘れずに。
まるで幼い子供のように喜ぶその顔を見ていたら、それを形にしてみたくなったのだ。本当ならば、ちゃんとしたキャンバスの上に描くべきなのだろう。

(だけど、まあ、これでいいのかも)


「ありがとう!!これ、ずっと取っておきたいなぁ!!」
「…」
「…あれ?どうしたの…わぷっ」


(だってなんか、大型犬みたいだし)

不思議そうに首を傾げた綾時の頭を抱えるように抱き込んでみた。予想通りの抱き心地である。毎朝セットしているのかはわからないが、オールバックの髪をわさわさと掻き混ぜる。
重心が後ろに傾いて砂場に倒れ込んだが、気にしない。今日は、やけに気分がいい自分がいる。ぎゅう、と抱き込む力も強くなった。


「な、なんか苦しい…里於く…」
「大人しくしていなさい」
「うー…」


多分、甘やかしてやりたくなる日もあるっていうこと。



シュガーブルームも融ける



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