(女主+ゆか+風)





「一つだけしか用意していないの?」
「うん」


私は風花と顔を見合わせた。でも目の前の彼女は至って本気な顔で、手元にある可愛くラッピングされた箱を掌でそっと包み込んでいる。聞いたところによると中身から外見まで全て彼女の手作り、飾り付けなんだって。全て義理だからとありふれた包装を幾つも並べた私のそれとは違い、まるでデパートに売っているのではと見紛ってしまう。改めて彼女の手先の器用さに感服した。


「じゃあもしかして、本命、とか?」
「うん」
「うっそ、即答?」
「私も、全然知らなかったよ…」


素直に満面の笑顔で首を縦に動かした柚葵は何時に無く可愛いと思った。芯がしっかりしてて、少し天然で抜けている所がある女の子。男性が放っておく訳が無いと思うのに、この一年浮ついた話なんて何一つ無かった。この三人で集まる事も度々あったのに、所謂恋バナというものには聞き手に回ってばかりだ。
そんな柚葵に、チョコレートを一つだけしか用意させなかった人。記憶の引き出しを片っ端から漁ってもそれは見当たらなかった。

でも私は、私たちはそれをずっと前から解っている。その事をほんの少し見落としていただけの話。隣の風花も同じことを考えているみたいで、普段の穏やかな表情ではなく、何か難解なものの答えを必死に見いだそうとしている顔だった。


「食べてもらえないなんてわかってるのに、可笑しいね、馬鹿かな私」


今度は満たされたような笑顔じゃない。自分の行動の無意味さに呆れたような、柚葵には似つかわしくない笑顔だ。そしてまた、「食べてもらえない」の言葉の真意は、受け取ってもらうもらわないのそれとは違い、彼女の愛情が詰まったその洋菓子を味わう事が出来ないというそのままの意味なんだ。根拠の無い確信を私も風花も信じていた。



臆する人




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テーマ「人外ファンタジー」
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