(綾+風)





「お持ちしますよ、お嬢さん」
「綾時君」


両手にスーパーの袋を下げてポートアイランドの駅前を歩いていると、最近よく耳にするようになった声と一緒に右手がふわりと軽くなった。そこには今学園で一番の有名人であろう綾時君が居た。お嬢さん、だなんて今時そうも聞かない言葉なのに、彼が言うとしっくりくる。そんな性格も含め、今日は女の子も携えないで珍しいな、なんて思ってしまうほど、綾時君はとても人気者だった。


「あの、ありがとね」
「気にしないで。それよりも…これは、何?」
「これ?夕食の材料だよ」


何故こんなにも買い込んだかといえば、寮の人々への夕食を作るための材料であって。勿論作るのは自分だけではない。自分の技量がまだまだ未熟なのは理解しているから、寮のみんなで作ることになっている。最初はゆかりちゃんと二人の予定だった筈が、気付いたら料理上手なリーダーも、興味本位の順平君も、ちょっと心配そうな天田君も、あの先輩達だって集まってきた。あの人数が居れば、きっと失敗だって少ない。何よりみんなで作った料理は絶対美味しいから。

気付いたら止むことなく私ばかりが話していて、綾時君は静かに聞き手に回ってくれていた。時折、吃驚したり笑ったり不思議そうにしたり、とても表情が豊かだった。ただ一つ、純粋に羨ましそうな顔をしたことがとても意外だったのだけれど。


「寮の人達は、仲が良いんだね」
「うん。みんながみんな、お互いを好きだったら、いいな」
「きっと好きだよ、見ててわかるさ」


彼が言ってくれるとこんなにも安心するとは思わなかった。順平君やゆかりちゃんやリーダー、そしてアイギスからの影響で仲良くなって、寮にも度々遊びに来てくれる綾時君は、クラスメートよりも近しい存在になっている。
そうだ。それならば。何故今まで思いつかなかったのか、その方が不自然ではないのか。こんなに親しい人を招かないでどうする。丁度荷物を持ってもらっているのであれば。


「綾時君も、一緒に作ろうね」
「ふ、風花さん…」


本当によく表情が変わる不思議な人だ。他愛も無い会話にも花が咲いて、夕食の献立を二人で想像してお腹を空かす。もしかしたら、弟が出来たならこんな感じなのかもしれない。同級生なのに弟だなんて可笑しい、そうやってみんなに笑われそうだ。でもこのほっこりとした気持ちは、お姉さんが感じるそれと何ら変わりが無かった。



かたちある幸せ




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