((荒)ハム+ゆか)





彼女はいつでも明るかった。それはどんな時も揺るがない意地と言ってもいい彼女の信念だと思っていたけれど、最近それが徐々に変わっている気がする。誰しもがそれは同じことで、何時でも明るく振る舞えるなんてことは普通じゃ有り得ないことで、必ずどこかで陰を為す。


「目が覚めないあの人を目の当たりにして思ったの。怖いって」


彼女の手元には高価そうな懐中時計が握られていた。それを撫でたり持ち直してみたりと忙しなく弄ぶ彼女の視線は、逸れることなくその時計へ一心に注がれている。正確に秒を刻む針の音は、遠慮がちに、でも強かに聞こえる。それはまるで、この時計の本来の持ち主を彷彿とさせた。

無機質な影時間に、激情の音が鳴り響いた。瞬間、傍に居たのは彼を恨んでいた小さな少年と、彼の幼馴染みだった。血溜まりに横になった先輩を見た彼女は、ただ何も言わずに涙を流し続けていた。それを傍で見つめていた私は、非常識だと思いつつも彼女の人間らしさに初めて気付いたのだった。最後に一言、どうして私は此処に居なかったの、小さく呟いた彼女の後悔もまた聞き逃さなかった。


「私は、どうしたらいいのかな。解らないの。あの人の声が聞けないだけで、温度を感じられないだけで、私、私」
「大丈夫だよ、きっと目、開けてくれるから」


我ながら気休めにしかならない言葉だと思いつつも、私自身も今の彼女に戸惑っていた。いつも一緒に居る仲間だというのに何も出来ないとは。大きな瞳が今にも零れ落ちてしまいそうな程不安に揺れるそれを見て小さく丸まった背中をさすり抱きしめてあげたことは、今この時に彼女へ施せた最善のことなのか。自分でもそれは解らなかった。

そう、彼女も生きている。人間なのだ。



柔らかな悲鳴を剥離せよ




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テーマ「人外ファンタジー」
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