(綾+主+順)





月光館学園、2−F、3限目体育。現在の授業内容は、陸上。

肌寒くなってきた季節ということもあってか、周りの生徒達も体育着の上から学園の指定ジャージを着込んでいる姿が多く見られるような気がする。実はそんな俺も元気印の体育着を封印して、ジャージのファスナーを首まで上げてきっちりかっちり防寒対策をしていたのであった。


「ささささぶぅ…」
「………」
「里於さんは寒さでいつにも増してサイレントですな」


俺と同じく、相変わらずジャージへポケットイン、ファスナーを上まできっちりと閉めた状態で首を埋めている俺らのリーダーさんも、急激な気温の低下に無言スキルが普段の倍くらい前面に押し出されている。
その中での、屋外体育。グラウンドの中心に組まれた陸上競技の用具に必死に取り組んでいる奴も居れば、俺らのように端の方で縮こまって「お手上げ侍」「どうでもいい」のツーコンボを決め込んでいる奴もいる。寧ろこの寒空の下で元気に走り回っている物好きなんて、陸上馬鹿の宮本ぐらいしか…。

と、そこまで思考を巡らせておいて、俺達の立っている場所から少しだけ離れた所に組まれた高跳び用具の前に綾時がいた。あいつ居ないと思ったらあんな所に居たのか。
不思議そうに見つめているあいつに、クラスの何人かが親切に教えてやってるんだろうな。そのうち「ありがとう、僕やってみるね!」みたいな笑顔で(いやあれは完璧そう言ってた。読唇術は得意なんだぜ)用具から助走距離分離れて、運動靴の紐を結び直し始める。

にしても帰国子女サマは高跳びまで知らないとは。やはり向こうの国では親しみの無いものなのだろうか。
そしてこのまま想像出来る展開といえばただ一つ。慣れないことを見様見真似でやれば棒共々あのクッションに倒れこみ「間違えちゃった失敗失敗!」なヤツだ。それでいて俺はそのテンプレ的展開を密かに待ち望んでいた訳だが、幸か不幸か神様はあいつに悉く味方する。


「…おいおいマジかよ」
「…ふーん………」


俺の期待は大いに外れたようで、あいつは見事な背面跳びで俺らの視界を横切っていった。周りからは散り散りな拍手と、感嘆の声が飛んでいる。それを一身に受けた綾時はといえば、何処か驚いているような、呆然とした顔でマットの上でへたれこんでいたが、周りの反応に対して徐々にいつものはにかみスマイルを振り撒きはじめた。
しかし驚いた。運動神経なさそうな面しているにも関わらずあそこまで易々と跳べてしまうものなのだろうか。やはり神様に好かれているような男は違う。別に僻んでいる訳じゃないぞ。絶対、ガチで。

と、ここで気付く。隣に居た筈の無言スキル発動なあいつが居ない…と思ったのも束の間だ。


「今の高さから10cm高くしてほしい」


近くにいた体育委員に高さを指示しているのは、先程まで寒さで縮こまっていた張本人だ。今しがた綾時が助走をつけたその場所で、首を左右に傾けてコキコキなんて鳴らしちゃったりして、なんとも好戦的な態度で立っていらっしゃる。
これは、もしかしなくても、このあとの展開が容易に想像できるフラグだ。リーダー様の解りにくい様で実は物凄く解り易かったりする行動に関して、俺の目に、耳に、そして頭脳に一寸の狂いは無いのだから。


「望月」
「はい?」
「そこから3秒で退け」


…っていうのも無理な話だと思います里於さん。退けと警告した時には、既に完璧な助走、完璧な背面跳びのフォームで弧を描くようにポールを飛び越えていたんだからな。そりゃ綾時の目も点になる訳だ。


そんな訳で、綾時への対抗心に火が点いてしまったらしいリーダー様は、見事な高跳びと、着地時にマットでは無く綾時を下敷きにするという、身体を張ったパフォーマンスを見せてくれた。少々やり過ぎな面もあったとは思うが、綾時は「彼の下敷きになるのも悪くなかった」と満面の笑顔で語ってくれた。

もう俺こいつらのことわかんねーわ。とりあえず体育の時には綾時に余計なことされないように見ておく必要有りであります!(ていうかアイちゃん助けて!切実に!)



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