(綾主と2年生組)





12月24日。イエス=キリストの誕生日前夜祭とでも言おう。あらゆる場所ではクリスマス一色になり、浮足立つ若者も数知れない。そんな華やかな街の中を
もちろん、この寮も例外ではなく、それは唐突にやってきた。


「「メリーメリークリスマース!」」
「ちょ、びっくりした!」
「わあ、その格好…」


寮の扉が勢いよく全開になり、そこには二人の少年が立っていた。ただしその服装は赤い装束を身に纏っていて、手には白い袋をさげている。ご丁寧に白いもじゃもじゃとした付け髭まで装備していた。
ロビーで寛いでいたゆかりと風花はそんな少年達の姿を見て、それぞれ呆れた顔と揚々とした顔になる。


「ハァイ皆さん!順平サンタが君達に笑顔を届けにきちゃったよん!」
「放課後二人でさっさ帰ったかと思えば、これがしたかったわけ」
「ゆかりさんは冷たいなぁ〜。もっと楽しもうよ〜」
「綾時君は楽しそうだね」


うん!とっても!笑顔で返事をした綾時は、手に持っていた袋の中を漁って、それを風花の目の前に差し出す。赤の包装紙と緑のリボンで可愛らしくラッピングされたそれは、クリスマスらしいプレゼントだった。


「中身はお菓子の詰め合わせなんだけどね、それ食べて素敵な笑顔を見せてほしいな」
「ふふ…ありがとう、綾時君」
「はい、ゆかりッチにも〜」
「あ、ありがとう」


順平の手からゆかりへと渡され、それを受け取ったゆかりも満更ではない様子だった。開けてもいいかな?風花が控えめに訊くと、どうぞどうぞ!と綾時が促す。二人が包みを開いてみると、クリスマスツリーを模しているクッキーと、星やハートの形をしたキャンディーが3つほど入れられていた。その中の一つをあけて口に入れると、ほんのりとした苺の甘さが広がって、確かに自然と笑顔になってしまうのだ。

なんでも一週間前から準備をしていたという。衣装もお菓子も全て自分達で用意した。この可愛らしい包装は、見掛けに寄らず手先が器用な綾時がほぼ全部包んだらしい。


「お世話になった人達に配ってきたんだ」
「で、最後は寮で終わり、ってな」
「ふうん。まあ、ご苦労様」
「でもどうしてこんなことを?」
「え、えっと、それはだな…」


途端に順平が言葉を濁した時、寮の扉が先程とは違い慎ましく開いた。マフラーに顔を埋めるその姿に、隣に居た綾時の顔にパッと花が咲く。
おかえりなさい。風花が声をかけると、控えめな声でただいま、と返す。それから隣でソワソワと落ち着かない様子の綾時に、来てたんだな、と声を掛けた。


「見て!僕、サンタさんなんだよ!君に笑顔を届けに来ました!」
「ああ、サンタか…。似合ってるぞ、それ」
「ほんと!?えっとね、君へのプレゼントは僕自身だよー!」
「はいはい」


なんかその態度酷い!そう嘆きつつぎゅうと抱き着く綾時を、里於は引きはがすこともせずに受け止めていた。次から次へとついてでる口説き文句は流しつつも、里於なりにこの大きなプレゼントとやらに口許を緩めて笑っていた。

端で見ていた他の3人はそのバカップル宛らの様子を微笑ましくも、鬱陶しそうにも見えるような態度で見つめていた。と、途切れていた会話を思い出して、風花は順平へ改めてこの行動の真意を訊いてみた。


「ああ、それな。あいつが提案したんだよ、綾時の為にって」


前は楽しむことすら出来なかったクリスマスを、うんと楽しませてやってくれないか、と。中々人を頼らない友からの頼みを、断れる訳ないだろ?はにかんだように笑う順平に、ゆかりも風花も思わず苦笑した。今、綾時の隣で笑顔になっている彼らしいやり方だと思う。


「ほんと、素直じゃないんだから」
「でも、リーダーらしいね」


思惑通りクリスマスを目一杯楽しんだ様子の綾時に、きっと彼も満足しているのだろう。ゆかりはもう一度順平にお疲れ様、と声をかけた。その言葉には、あの二人の笑顔を守ったことへの労いが含まれていた。



君だけのサンタ




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