((綾)主と天)





第一印象は、面白い人。それから見た目よりも幼い部分を端々に残した人。あと初対面でも僕を子供扱いしなかった人。


「入れ違いでしたね。綾時さんさっき帰りましたよ」
「綾時?きてたのか?」
「ええ、会わなかったんですか?あ、今コーヒー入れますね」



丁度成瀬さんが帰ってきた。寒かったのだろうか、室内に入った彼の鼻の頭から頬まで赤く染まっていた。もうマフラーやコートなどの防寒具が手放せない時期になっていることもあって、外から帰ってくるとき皆さん一様に縮こまったように寒さを凌いでいるようだった。

僕自身が飲みたいと思って作ってあったコーヒー(とはいえインスタントだ)に、成瀬さんの好みに合わせて角砂糖を一粒落とした。ブラックは少し苦手だという彼は、微糖タイプの缶コーヒーを好んで飲んでいるらしい。


「どうぞ」
「ありがとう。…はあ、あったかい」
「それで?」
「ん?」
「ん?じゃなくて、あの人、貴方に用があったみたいでしたけど」


え、知らない。思わずマグカップから口を離してしまうほど驚いた顔は、普段は見せないような無防備な表情をしていた。これは、なかなかにレアだ。ブレザーのポケットから取り出した携帯の画面を確認するなり、今度は明らかにしまった、といった顔を見せた。


「着信、3件も入ってた…」
「今まで何してたんですか」
「ちょっと…合体を…」
「はい?」


意味深な発言を気にしつつも、素早く指を動かして文字を打ち込んでいるその姿を、僕はじっと見つめた。うん、確かに横顔が素敵だと思うし、元々中性的な人だ。不思議なオーラも纏っていて、男女問わず人気なことも知っている。
そんな人が、どうして噂のナンパ師帰国子女と。綾時さんの噂は初等部にまで届いていたから、まさかそんな人が僕らのリーダーと、なんて思いもよらなくて。


「不思議な関係ですよね。一番縁が無さそうなお二人なのに」
「…綾時と、僕?」
「はい。ずっと思ってました」


性格も真逆、寧ろ合致するような部分なんて無いんじゃないかって思うくらい見事に掠らない二人だと思う。元々自分は初等部だ。日常を見ていないから順平さんやゆかりさんほど二人を知っているわけでもないので、知ったような口を利いてはいけないのかもしれない。
でも、彼の話をしている時の綾時さんは、嬉しそうだった。この人、本当にリーダーを好きなんだ。僕よりも余程素直に感情を伝えることが出来る人間。その姿に、綾時さん素敵ですね、と伝えたら、天田君は大人だね、とニコニコした笑顔で返された。

そういえば、綾時さんが絡むと表情がコロコロと変わる彼にも驚いた。ああ、なんだ。お互いに影響し合っているだけのことで、これはもう立派に恋人を謳歌している。他人の目にも見える程、思いは通じ合っているらしい。


「綾時さん、寂しそうでしたし、今度はちゃんと電話に出てあげなきゃだめですよ」
「天田…大人だな…」


あ、言うことも同じだ、この二人。



あなたは愛をくれました




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