(綾主)





「しあわせだなあ」


空がオレンジから濃紺に変わる寸前の夕暮れに、長鳴神社の片隅で、自分たちは肩を並べ、掌を重ね。身体を寄せ合っていた。とても暖かくて、とても満ちていた。こんな充実感は初めてだったんだ。心から幸せそうに呟いた隣の彼は、ずっとずっと笑顔だった。頬に少し朱を走らせてすりすりと身体を寄せてくる。自分は何も言わなかった。ただ瞳を閉じてひたすら身を委ね続けた。
正直、彼のこのような態度は満更でもない。自意識過剰なのかもしれないけれど、確かに「求められている」ことを自覚した時に、自分も同じように充実感に包まれた。


「君の隣はあたたかくて安心する。僕が僕でいられる唯一の時間だ」
「お前は、お前だよ」
「うん。…うん、そうなんだけど。でも違うんだ」


恋人繋ぎをしている右手に力が篭る。綾時の顔を覗いてみると、それは実に健やかで平穏な表情をしていた。

綾時と一緒に下校して、まだ夜道とは言えない暗さなのに寮まで送ると言われ、それがまだ「二人でいたい」との口実ということも見抜いていた。その行動総てに、自分を純粋に好いてくれている真意を知ってしまうと、こちらも自然と嬉しくなった。こうして、誰かに触れ合うことを許していることも、以前までは考えられなかったというのに。


「幸せだな」
「ほんと?君の口から聞けるなんて、僕、人生の中で一番嬉しいかもしれない」
「大袈裟な奴…」


ふやけたように笑う顔が素直に愛しいと思った。綾時が言った「僕が僕でいられる」という言葉が、二人の時にしか見せないこの笑顔であるならば、きっと自分も同じなのだろう。この男の横で、いつまでも寄り添って身を預けることは「自分が自分でいられる」たったひとつの方法なのかもしれない。

寒いね、寒いな。言い合いながら一緒に吐き出した息は、白く立ち昇りオレンジと紺と現れ始めた星屑に溶けていった。



綺羅星フラグメント




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