(綾→♀主←アイ※これの続き)





なんとかアイギスを説得して学校に来てみたものの、彼女は今日一日傍を離れないと頑なにその意志を貫き続けていた。この調子なので朝から順平どころか岳羽とも会話がままなっていないので正直少しだけ気後れしている。気付かれないように溜息をついたつもりが、心配そうに顔を覗かれるし。

2限目の終了を告げるチャイムが鳴り響くと同時に彼女は手を握ってきた。そして二人だけに聞こえる声量で、貴女の事は守りますから、と優しく微笑まれる。ちょっと、これはなんか、色々と踏み外しそうな笑顔だ。アイギスさん何時からそんな紳士になったんです?


「二人とも、仲良しさんだね」
「…望月綾時」


こちらもまた優しい声音が頭上から降ってきたのでそちらを見てみると、張り付けたような笑顔の望月が居た。すると握る手の力が少しだけ強まったかと思ったらその鋼鉄の手は離れていった。そして自分と望月の間に立って、彼女の背中に隠れてしまうことになる。こちらからは望月の顔も姿も見えなくなってしまった。
教室に居たクラスメイト達は一瞬だけ何事かとこちらを向いただけで、いつもの攻防、いつもの光景だと納得してすぐに視線は外れていった。


「貴方は、ダメであります」
「いつもの挨拶有難う。でも今は彼に用事があるのだけど、ダメ?」
「ダメと言ったらダメなのです」


せめておはようの挨拶だけでもさせてくれたらいいのに、という残念そうな声が聞こえてくる。とりあえず顔は見えないけれど、きっといつもの情けない犬のようなしょげた表情してたりするのだろうか。それは安易に想像出来た。

(まあ、挨拶くらいは平気かな)


「望月、おはよう」
「…ん?おはよう、?」
「里於さん!」


あれ、何かマズいこと言った?明らかに怪訝な望月の反応と、焦ったようなアイギスの反応。なんで、何も悪いことしてないけど。
そう思った時に、あ、と口元を押さえる。そうだった、女だったから声帯も変わっていたんだった。そして望月もその変化に気付いて怪しんだ。アイギスはそのこと知ってて話させまいとしていた。明らかに今、自分は余計なことをした。

「あの、なんか、声が違うような」
「風邪を引かれているのです」
「僕は彼に訊いているんだ」
「貴方に伝える言葉など私の語彙で充分であります」


明らかに二人の間に流れる空気が不穏なものになった。なんだろう、月一の大型シャドウよりも緊張感のある威圧がここまで伝わる。そしてこの因果を作ったのは明らかに自分。

こんな肩身の狭い状況が次の授業開始を告げる鐘が鳴るまで続くことになる。早く鳴ってくれ早く早く、口には出さず内でずっと呟いていた。



諦めて笑いました




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