(綾主+順+友/3年生捏造)





キーンコーン、と続く終了のチャイムが鳴り響く中後ろを振り向けば、何の巡り合わせか、今年度も同じクラスになった友近が欠伸を噛み殺した顔をしていた。それもそうか、江古田の長ったらしい授業を平常のテンションで聞けるやつはまさに国宝級に値すると俺は思う。だってほら、俺らの元リーダーも前の席だというのに堂々とおねんねだ。むしろその姿に貫禄さえ感じるとは、1年という歳月をそう侮ってはいけないらしい。


「俺もう無理…午後を生き抜ける気がしないよ順平…」
「頑張れ、と言いたいところだけどお互い様だからどうしようもねぇよ…」
「なぁー成瀬もサボらねぇー?」


少し声を張って前で突っ伏す里於に向かって友近が呼び掛けた。応答は少し遅れて、突っ伏したまま右手を挙げてひらひらと振ってきた。ああ、こりゃ、一人で行ってこいよ、の意思だな。こんなか弱き男子を一人放り出すとは罪な男ね!と安い芝居を混ぜて友近が項垂れる。
これも全て流れる時間が酷く平和なのがいけない。1年前は休まることを許さないくらい動き回っていたのに、まるで俺達が達観してしまったように静かに時間は過ぎていく。悪いことじゃないけど、寧ろ良かったけれど、拍子抜けした感じは否めない。

あの日、疲れきって眠り込んだ里於を誰もが心配して、目覚めた時には誰もが胸を撫で下ろした。これでやっとみんな揃って「普通」に戻れる、それはあの激動の時間を過ごした自分達だから痛感した事実だった。


「里於くん!」


扉の方から聞こえた男子平均よりやや高めの声。その声に今まで机から離れようともしなかった里於の体がむくりと起き上がった。俺と友近の目線もそいつに注がれていて、さすが元プレイボーイ、と友近がひっそりと呟いた。

クラスは別になったけれど、3年生のフロアには確かに綾時の姿もあった。前は単純に何も知らない無邪気な子供と変わらなかったけれど、酸いも甘いも経験したことで人懐っこさはそのままの等身大のヒトになった。


「あのね、次英語なんだけど……、」
「うん、多分持ってる」


席まで戻って鞄をガサってる様子を見ると、綾時は何かを借りにきたみたいだ。多分、参考書らしきものを手渡されると満面の笑顔でありがとう、と伝えているのか、慣れない里於は身の置き場が無さそうにわざと綾時から目線を外す。なんだろうね、この妙に初々しい感じ。
里於が目を覚ました数日後。不気味な塔も無くなった真夜中の学校の校門前で倒れていたのが綾時だった。信じられなかったけど大事な友人の一人が帰ってきてくれたことは嬉しかった。だから里於なんて、嬉しいなんてざらじゃないくらい、沢山思うことがあったと思う。
俺は二人のことが好きだから、そんな二人がこんな夢のような形でまた寄り添って歩く姿がどうしようもなく嬉しい。知ってるか、綾時なんて見境なく女性に声を掛けることを一切しなくなったんだ。あれには友近共々驚愕した。

(本当に里於しか瞳に映っていないと周りに示すように)


「今日、一緒に帰れるか?」
「うん!…あ、でも、僕今日日直で、待っててもらってもいいかな」
「構わないけど、女子?」
「へ?」
「二人一組制だろ、もう一人は女子なのかって聞いてる」
「そう、だけど…し、信用してよ!」
「どうだか。綾時だし」
「僕には君しか要らないのに!」

「うーわーあれ見せつけじゃん」
「バカッポーめ爆発しろ…!」


徐々に鮮明になる会話が砂を吐きたいレベルのものだったのでお陰で俺達はげっそりだ。教室の入口でぎりぎりと音がしそうなほど里於を抱きしめる綾時の図。廊下を歩く人々は皆一様に怪訝な顔をしていた。

ただ、彼らにしてみれば、この生活は戻ったのではなくて、新しく始まった人生で、それでいてお互いに好きだと思える相手同士と幸せを築きつつある。俺は、今度こそ絶対に離れるなよ、とばっちりはこっちに来るから、常日頃から願っている。


「だけど先ず目先の危険を察知するべきだぜ、綾時…」


あと数秒後に訪れる鋼鉄の乙女、もとい里於のナイト様の奇襲を攻略する方法はどうやったって見つかりそうにないと思うけれど。



生まれておいで




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