(綾主)





寮に帰ると2階のロビーに望月が座っていた。こちらに気付いて笑顔で手を振ってきたので、軽く手を上げて応える。ただそれだけなのに心から嬉しいと訴えかけるオーラを体から放出するのでやはり何処か憎めない奴だと思った。
どうして此処に居るのか、と訊いてみると、どうやら順平の帰宅待ちらしい。彼に貸していた英語のノートを返してもらう為に来たけれど、寮には誰も居ないしラウンジで待つにはあまりにも広すぎて落ち着かなかった、と。


「最初に会えたのが君で良かった。うん…なんだかとても嬉しいよ」
「だって此処住処だし」
「いや、住処って成瀬くん…」


あ、望月の苦笑、初めて見たかも。そんなことを頭の片隅でさり気なく感じながら備え付けられた自販機の前で何を飲もうか考える。この場合はやはり望月の分も買っておくべきなのだろうか、慣れない「気遣い」というものを意識して二人分の小銭を投入した。とりあえず自分は剛健美茶を選択しておき、残りの120円を何に費やそうか悩んでみる。
すると横から腕が伸びてきて剛健美茶のボタンを押した。ガコンと派手な音には気にも留めないで、気付かぬ内に隣に立っていた望月を見つめる。気配の無い奴だと少し驚きつつも二つの缶を取り出して、片方を手渡し、再び椅子に座る。

ここでもまた、心底嬉しそうな顔をするんだな、お前は。


「これ、僕も好きなんだ」
「そうか」
「前々から思ってた事なんだけど、君と僕って色々嗜好が似てると思わない?」


例えば、ほら、君が購買で買うパンの種類だとか。三色コロネ好きでしょう?僕もなんだよ。あとはジュースのメーカーもそうだし、味もフルーツオレが一番じゃない?

楽しそうに話す望月と、聞き手に回っている自分と。端からすればいつもと変わらず何気無いやり取りなんだけど、自分は何処かに普段とは違った明らかな違和に気付く。多分自分は、嬉しいんだ。いつもなら絶対有り得ないだろう。戸惑いを隠すように缶に口をつける。
二人だけで共有する会話というのは、意外と心地の良いものだったらしい。望月は相変わらず自分との共通点をつらつらと挙げている。普段ならばただの偶然が高じたと理由をつけて一蹴していただろう。それをしない自分は、やはり変だ。


「でもさすがに、恋愛観は違うね」
「不特定多数が相手のお前と一緒にされたくない」
「ほら、そういうところ、とか」


不特定多数が当たり前だと言うのだろうか。あまりの非常識さに、何が、とムキなって反論しそうになった時に、目の前が真っ暗になった。決して暗転した訳じゃなく、本当に視界が遮られた。さっきまで冷たい缶を当てていたそこは、物凄い熱量を感じていた。

抵抗する術も無いまま、自分は、望月から与えられたキスを受け止めるしか無かった。何処でどんな脈絡になってこうなったのか、よくわからない、けど。


「いくら似ていても、違うんだ。そんな君に僕は本気、だったりするの」
「……無茶苦茶な、恋愛観だこと」
「うん。でも仕方ないんだよ。どうしようもないじゃない」


今度は本気で照れたように笑いかけるので反射的にこちらも照れてしまった。手汗で滑り落としそうになった缶を持ち直し、左手で顔を覆った。何か言葉を紡ごうにも口からは盛大なため息しか出ないとは。あからさまな動揺を見られて二重苦だ。ああもう、穴があれば即侵入。

順平が帰ってくる30分後まで、僕は衝撃過ぎる彼の恋愛観を存分に味わうこととなった。



僕の真ん中がおかしい
(里於さん、それは恋です)




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -