(政と佐→慶/これの続き)





「旦那と仲良く花見、どうだった?」
「うん。良かったよ」
「嘘吐きやがって。顔に出てるぜ」


そんなことねぇよ、本人は至って平然とかわしたつもりらしいがその顔は眉尻を下げて笑っている。それは慶次がいつも言葉をはぐらかさんとする時に見せる解りやすい表情だった。俺達が出会ったあの時の癖をこの愛しい男は未だに持っていた。
こいつは自分自身を知らないけど俺達はこいつの知らない核心の部分を沢山持っていた。それをむざむざと本人に話すような間抜けな真似は一切しない。何故俺達が知っていてこいつが何も知らないのか。理由だってはっきりしてるから俺は慶次を責めることだって出来ないんだ。隣で飄々と接している猿飛も多分俺と同じ様に考えているんだろう。


「…ごめん、佐助」
「なぁに慶ちゃん」
「俺、多分だけど、幸村を傷付けるってわかってて花見の誘いに乗った」
「……そう」


真田は俺達よりも何もかもが稚拙だ。だけど誰よりも真っ直ぐだから慶次は真田を選んだ。あの熱血馬鹿に負けない程、俺だってこいつを見ていたのに。俺がお前に掛けてやった全身全霊なんかよりも、結局は慶次自身が目を背け続ける過去の繋がりには敵わなかったようだ。

花見に誘え、と真田を唆したのは俺と猿飛だ。慶次もそれに気付いていた。だからあのでかい桜の木の下で二人が何を話したのか、大方解る、と思う。
真田は、慶次が何も覚えていないのは過去の自身の存在があったから、と罪の意識に近いものを持っている。慶次もどことなくそれを感じ取っているにも関わらず尚も奴の傍に居続ける。とんだ悪循環だ。


「桜がね、」
「桜?」
「綺麗だったんだ、でもな、幸村と一緒だと不思議と悲しかったんだ」
「……慶ちゃん、今日、俺様達と帰ろっか」
「…どうして?」


どうしてって…、渋るようにこちらを見てきた猿飛と珍しく意見が一致した。だってお前、そんな顔して真田と帰るつもりなのか。せめてもう少し上手い愛想笑いをしたほうが良いというのに。猿飛の気遣いを丁重にお断りして教室を出ていく慶次の後ろ姿はとても小さく見えた。
あの頃とは違って俺達はいつだって対等で居られる。昔を懐かしむかの様に笑って話せるネタにだって出来たのかもしれない。

(だからって何も慶次だけハブること無かったんだ。なんで何時もあいつだけが噛み合わない)


「幸村と帰る約束してるから、またな」


右手を挙げた慶次の後ろに、いつかの華やかな恰好をしたあいつが重なって見えた。一つ瞬きをすればそんな幻影すら見当たらなかった。だけど確かに俺の左目には桜に囲まれて笑うあいつが焼き付いたままできっとそれは一生消えることなく瞼の裏で生き続けていくのだろう。此処に居る慶次よりも先ずあの風来坊をフィルターに掛けて見ることに成ろうとは。多分これが、あいつが嫌った争いばかり続けてきた俺達への精一杯の皮肉だと思う。



普通なんかいらない





(もうちょい続きます)



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