(幸村と半兵衛)





「君の赤は目障りなんだ」


顔色は決して良いといえたものじゃなく、指先は血の通わぬような冷たい体温。ただ主に尽くそうとする心構えはどことなく自分と似通ったものがあり、決して親しい訳でもない。例え抱えている病が有ろうとも妥協はせずに剣を交える。ただそんな竹中殿が「幸村君」と少し親しみを含んで自分を呼ぶので邪険には扱えないのだ。


「目障り、と申されても…この赤はお館様への忠義の証。この赤無くして某は居ないのです」
「僕にとってはその忠義とやらに背く色なんだけど」
「…貴殿の申す意味がわかりませぬ」


うん、じゃあ理解力に欠ける幸村君にも解るように言えば、君のその赤は君が敬愛する甲斐の虎が流す血だとしよう。倒れることが無いと過信していた主の血を纏って君は戦場を駆けるんだ。ねえ、幸村君。それでも君は、赤を好きだと言えるのかい?

竹中殿が申した言葉はやはり解らなかった。俺にはお館さまが唯一無二の存在でありあの方は倒れまいという絶対的な確信があったから、その時は彼が抱く焦燥感を共に分かち合うことが出来なかったのだ。


「しかし某は豊臣殿も戦の一つ二つでは倒れぬお方だと知っておりますぞ」
「……さぁ、どうだろうね」


瞳を閉じて静かに笑った彼の真意は解らなかった。ただ後にそれが大きな実体を成して俺や竹中殿を苛むことを浅はかな俺は気付けずにいた。彼は気付いていたのだろう、主の末路も自身の行く末も。だからこそ瞳を閉じたあの時、彼が平穏の流れた世の中で生きている理想を瞼の裏で描いていたら、と考えるしかなかったのだ。







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