(幸慶/現代仕様) 「…さくら」 「桜?」 「うん、桜。綺麗だよな。風が吹くと目が眩むぐらい花びらが舞うんだ」 そう言った慶次殿の顔は面白い玩具を見つけた時の子供とも見紛うくらいに無邪気だった。生憎本日は風のひとつもなく花達は勢い良く咲き誇っている。彼が望む程花も散っていないし何より桜はこうして満開を楽しむものであり散り際を待ち焦がれる人なんてそうそう居ない気もする。ただこの人だけは普通の人間が持つ考え方とは何処か一線を引いた客観的な見方をしている。それは、昔から変わらなかった。 (そうだ、昔から) 「何故、桜がお好きなのですか」 「どうしたの、幸村」 「慶次殿は、何故自分が桜を求めているのか、些細な疑問かもしれませぬが考えたことは有ろうか」 問いの意味が伝わらなかったのか。或いは脈絡のない突飛な言葉に驚いたのか。少し小首を傾げて見つめられる。 こんなつまらぬ質問を俺が分かっているのに彼は核心を知らない。こんな昔の断片を見かける度にやはり彼はただの前田慶次だと改めて実感させられた。重ねてはいけないことも、今現在柵に捕われないで一人の人間として生きている彼に、俺の知るあの人を押し付けてはいけないことだって。分かっているのに。 「例えば幸村が政宗を追う理由とか、佐助が幸村と一緒に居る理由とかと、きっと同じことなんじゃないかな」 「…酷い方だ」 「あの、ごめん。そんな悲しい顔、させるくらいだった?」 彼の無意識の底では俺達と同じように昔を共有したいと願っているのかもしれない。だけどあの時の前田慶次はあの世界を好いてはいなかった。あの世界の人々は彼を好いていたのに本人はずっと拒絶していたことを知っているから、未だにこの方は何も知らずに此処で生きている。共有したいと願わせる過去そのものが彼に今も尚鍵を掛けつづけている。 「俺だけ仲間外れなの、知ってるから」 「!、慶次殿!」 「それが何なのか、何故なのか、分からないのが悔しいんだ」 中途半端で過去と現在の狭間で留まる彼が一番苦悩していたことを知らずに問いを投げ掛けたことを酷く後悔した。困ったように笑う癖は変わらないままだ。ああ、そんな顔しないでくだされ。俺は、俺たちは、貴方がまた傍に居てくれる選択をしてくれただけでも嬉しいのです。ただ、 (あの頃以上の距離感がもどかしい) 桜に見初められた人 (慶次以外のメンバーは輪廻の記憶があり、慶次も自分が疎外されてることに薄々気付いてる) |