(幸慶)





「慶次殿、口をお開けになって下され」
「ん、こうかい?」


言われるままに口を開けると、舌の上にもっちりとした柔い感触が乗った。それは幸村自身が一番の好物だと豪語している団子一串。お付きの忍が一日五串までと上限をかけている影響が強くて普段なら自分が物欲しげにお願いしても頑なに拒むこの少年が、何の躊躇いも無く素直に分けてくれた。団子特有の弾力さえも嬉しくてつい上機嫌になる。


「本日はお慕い致すお方に甘味を差し上げる日、なのだそうです」
「そっか。ありがとう幸村」


ああもう、折角この少年がくれた大切な甘味とやらを食べてしまった自分を悔やんでしまう。食べ進める速度は人よりもずば抜けていた。だけれどここで発揮しなくても良かったのに。
幸村が自分に寄せてくれる好意がとても心地良いことを最近自覚したばかりだ。それまでは自分に構ってしまう彼の意思を重く考えていたのに、それでも尚、手を取り真っ直ぐ見つめる無垢な瞳を嫌いにはなれなかった。


「某は、何時までも、貴方をお慕い致します」
「うん」
「傍に、居てほしいのです」


手を包み込まれるように優しく握られて思わず頬を朱を走らせてしまった。
色恋に疎いと思っていた若き虎の屈託の無い素直な思いを、自分だけが受け取ってしまって勿体無いと今でも思う。でも俺が例え謙遜気味になっても、幸村はしっかりと捕まえにくる。追い追われはもう止めよう、結構疲れるんだ。
正直二人一緒で今の世の中を上手く生き延べるとは思えない。必ず何処かで道は逸れていくし、幸村が大人になれば正しい恋の在り方を理解するかもしれない。でも暫くの間は、寄り添うことの充実感を得ることが出来るかもしれない期待を胸に潜めている自分が、浅はかながらに少しの至福を既に得ていた。


「限界まで一緒だといいね」
「限界が訪れる事の無いよう、日々精進致します」
「…頼もしいな」


何年、何十年、何百年経ってもこの距離感を保ち続けられたらすごく良い。今のように共に団子を食べながら、澄んだような青を見上げながら過ごすんだ。願望を実らせることは実に難しい、でも精進してくれる強い支えが居るのだから、不可能じゃないかもしれない。俺は仏教を重んじる訳でもキリシタンでも無い。だけどこの、今にも消えそうなほど淡い願いを少しだけ叶えてもいいんじゃない?


俺はまだ気付いていない、でも彼は気付いているかも。今と同じ澄んだ青の下、お世辞にも暖かいとは云えない季節、校庭の賑わい。そして団子が、より一層甘くなったカカオ菓子に変わり、彼はまた囁く。

傍に、居てほしい、と。




馳せる人







「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -