(政慶/現代仕様)





あんたが好きだ。俺からこの言葉を何度送り、何度突き返されたことか。俺も政宗が好きだよ。でもそれは俺とは別の意味である友愛を含んだ言葉だった。だから言った。あんたが好きだ、あんたとKissしたくてどうしようもない。そう呟くと、ようやく顔を赤くしてはにかんだ。それ以降、在り来りな御託を並べてひたすら拒否を示した厄介な相手だったものの、今はこうして隣に居る事を許された。その暁に、涙ぐましい努力の賜物だと自慢して回ったのも酷く昔のように思える。


「あは、これおいしい!」
「そうかよ」


周りから花が飛んでいるように見えるくらい顔を緩ませて咀嚼する姿の愛らしさといったら。おいしい、ほんとにおいしいんだからな、何度も何度も伝えてくれることは有り難いものの、少しだけ気恥ずかしさもある。素直じゃない自分は彼に対して、なんでもないようなそぶりで、ぶっきらぼうな態度で接してしまう。
慶次は、元は俺の家庭教師だ。今も勉強を見る為に家を訪ねてきている。その筈が手には筆記用具ではなくフォーク、作り置きしていたケーキに歓喜していた。


「ごちそうさま!」
「…口、クリームだらけだ」
「あ、ほんとだ。へへ、クリームおいしい」


口の周りに付いたクリームを舌で綺麗に舐め取っている。おいしかったなあ、また食べたいなあ。その言葉も何度目になるかわからない。その度に俺は勉強の時間を決して楽じゃない菓子作りの時間に割いてしまう。後片付けとか、糞がつくほど面倒臭いことを、多分このおっとり野郎は知らない。

昔からそうだ。お人好しで天然で鈍感で。そんな彼は色恋話に目が無い。恋に悩んだ人間を嗅ぎ付けては生き生きとした様子で首を突っ込みたがる。その割に根はおっとりしている性格のお陰で周囲の奴らはこいつのペースに飲まれる。腑に落ちないが俺もそんな奴らの一人だ。


「食べたら眠くなっちゃった」
「本来の目的を忘れんな」
「わ、わかってる!」


曲げていた姿勢を直ぐさま正して俄然やる気を見せた。今日は日本史だ。食器をキッチンへ運ぶと、がさがさとバッグの中を漁り参考書を広げる。中には慶次が受験当時に使っていたものも混ざっていた。

(忘れちゃ、いねえよ)

こいつが年上の事実を。俺の置かれた立場を、慶次はもう既に乗り越えている。大学生と高校生という立場以前に、子供と大人の境界線を乗り越えるには余りにも大きくて。それはまだ自分が未熟故の卑下なのかもしれない。それでもこのおっとりとした危なっかしい男の腕を掴んで引き寄せるに至るまでは程遠い気がする。


「ちくしょう、追いついてやる」
「政宗、顔、怖いよ」
「Shit up…いいからやるぞ万年2位」
「やめてよ!傷が痛む!」


弱点を少し突いてやると両手で顔を覆って泣くわざとらしいそぶりを見せる。意外なことに慶次は見た目と反してそれなりの成績を残している。ただ頭の切れる幼馴染みの存在が立ち塞がる限り、どうにも2位という位置に居座らなければならないらしい。

そんな強敵の居るお前の大学を志望するつもりだ。そう言ったらどんな顔をするのか楽しみだ。ただ、次の模試で全国1位を得るまでは、この固い意志を打ち明けまいと決めている。



駆け引きは終わらない







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