(慶次独白)





俺に何が出来るだろう。そう考えたとき、まず初めに、秀吉を止めることだと思った。でもそうしたら、俺の大切な家族との擦れ違いが起きた。空から降ってきて、髪を、頬を、肩を濡らす雨がいやに冷たかったことだけは覚えているけれど、それまでの、利と刃を交えたこととか、まつねえちゃんに薙刀を向けられたこととか、なんかもう頭から全て飛んでいた。体の力が抜けて、ふと、どうして俺かここまでやらなくちゃいけないんだ、と拳を握りしめた。爪が食い込んで、少しだけ痛かったなあ。

それで秀吉に会いに行った。会いに行って、あいつの名前を叫んだ。喉、ちぎれそうになるまで必死に呼び止めた。でもだめ。半兵衛には生きる世界が、先を見つめる瞳が、違うと言われて。あいつらの眼前に俺はもう映っていない事実を痛いほど突き付けられた瞬間だった。

でも、でも、なんとかしたかった。もどかしくてがむしゃらになりそうで、胸の奥がつきつきと痛む。すると、加賀にいる二人が、頭を過ぎった。泣きつくわけじゃないけれど、会いたくなった。だから、会って話をした。優しかった。二人は相変わらずだった。俺は心の中で沢山ありがとうを伝えて、前田の名と向き合うことを決めた。でもやっぱり、二人の見ていない場所で、ちょっと泣いた。

最初からこうすればよかった。放蕩者じゃなくて一国を束ねる当主として、同じ土俵に立てばいい。まつねえちゃんの用意してくれた衣服に袖を通して、この門の前に立つ。二人には迷惑を掛けない。俺が、前田慶次がたったひとりで成したこと。なあ、そんな俺に、お前はどんな顔をする。どんな声で、どんな眼で、俺を試す。

俺は怖い。怖いよ秀吉。お前が怖い。だから会いに行くよ。俺自身の為に。



僕らの過ちをなかったことに出来たら







第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -