(親就)





「なにをしている、早く殺せ」


汚れや傷なんて想像も出来ないあの毛利が、使い古された布のように滑稽な姿を俺に曝している。奴の周囲にはいくつもの屍が思い思いの表情を残したまま動かない。冷徹な当主になんて健気な家臣なんだ、勿体無い。そう思った。動く力も残していない毛利は、冒頭のように俺に殺せと云った。何故、無関係な自分の手を汚すのか。考えずとも奴の遠回しな嫌がらせだと判っていた。
毛利軍の負け戦だと聞いて興味本位で瀬戸の海へ船を出した。でもそれは根本的に間違いだったのだ。出すべきでは無かった。
毛利は肌が白かった。だから赤の色がとてもよく映えた。俺はそれを綺麗だと思うこともあれば忌々しく鬱陶しいと嫌悪することもあった。だけど今、口許から流れ出る鮮血に、自分はどうしようもなく欲した。拭おうともせず顎まで伝った赤い跡が一際目につくのだ。そんな境遇なのにも関わらず相も変わらず瞳はぎらぎらと俺を真っ直ぐ射抜いている。外見と内面の温度差の激しさが、内に溜まりつつある欲をくつりくつりと煮詰めた。

(最悪だ。最悪だ最悪だ。嘘だろ、なぁ)

確かに自分は欲情している。一寸の狂いもなく標的は目の前の男だ。そんな自分に激しく失望する。だって、だって、そんな筈はない。衰弱した人間を見て欲を掻き立てるなんて話は聞いたことが無い
。だけど確かに利かない、制御が、理性が、自我が。

毛利は少ない体力で、か細い呼吸を必死に繰り返すたびに。ほらまた、くつりくつりと煮えたぎる。


「なぁ、助けるってのは」
「虫酸が走る。諄いわ、長曾我部」


本当に、馬鹿な男だ。其れに欲情した自分は更なる馬鹿なのだろう。
無意識に指で拭った奴の鮮血はやはり不味かった。



どうしようもない







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テーマ「人外ファンタジー」
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