(家慶/3紫ルート後) (でかくなったなあ…) 串にささった団子を口に運びながら隣の男を盗み見た。ここ数年で随分と精悍な顔付きになったなあと思わず見惚れてしまうほどである。美味しそうに甘味を食べている横顔から何故そんな夢を見たようなことを思ったのかわからないけれど。とにかく背丈だけじゃない、そこかしこが大きくなった家康は一つの国を纏める主なんだと実感してしまう。 「あんな小さかったのに」 「ふぉ?」 「さっき子供扱いされたみたいでちょっと解せなかったんだよ」 今まで内に溜めていたものを全部家康に吐き出して、家康の口から秀吉の最期を聞いて、諸々の許容量を越えてしまった時に一粒だけ流した涙が酷くしょっぱかった気がする。でもこれで、やっと二人に踏ん切りがついた。やっぱり三方ヶ原まで足を運んで良かった。 そうしたら家康が、泣くな泣くな、団子食わせてやるから、って言いながら頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜてくる。それがどうにも釈然としなくて、あと気付けばその掌もでかかった。この手で東軍を纏めてるなんて、つい昔までは考えられなかったというのに。 「憎めない男前ってちょっと狡くないかい」 「褒めても団子のお代わりは無いぞ慶次」 「そうじゃねえって…もう…」 どこか抜けてても許されるから狡いんだよ。ムッとして家康の手から串団子を引ったくって刺さっていた団子を一口で食べてやった。さすがに一気だともさもさしてて喉に詰まりそうになる。またそれで気が利く男だからお茶の入った湯呑みを笑顔で差し出してくるのが、もう、癪に触る。 「今日はやけに可愛らしいな、慶次」 「なっ……茶化すなよ、馬鹿」 「? 茶化すって何をだ?」 至極真面目な顔で聞き返されたので逆にこちらが恥ずかしくなった。顔が熱い。更に、思ったことを言ったまでだぞ、との言葉までついてきた。無意識でここまでとは尚更悪い。 「あっ」 「な、なに」 「動くなよ、慶次」 真正面から家康に穴が空くほど見つめられる。真っ黒な瞳だ、見つめていたら気付かぬうちに吸い込まれるのではないかと不安になる。でもそれは一抹の杞憂となって終わりを告げた。 口、の際。手が伸びてきてちょいと拭われる感触。家康の人差し指に着いた小豆色のもの。そのままぱくりと食べられた。 「口の回りに餡を付けて子供だなあ」 「は、はははは、はあ」 「慶次?」 「かえる」 渇いた笑いしか出てこなかった。そのまま立ち上がって大股で来た道を戻ると、後ろから慶次ー?と呼び止めようとする声が聞こえた。もう知らない、何も知らないと決め込んだので声も聞かないし勘定だってあいつ持ちだ。 いつの間にか大きくなって大人になってしまった男に戸惑いを隠せなかったなんて、そんなことはない。決してないさ。 思わず泣きそうになりました |