(親慶/現代仕様)





そいつが目に飛び込んできた時、それはもう唖然とした。何かが可笑しい、いや可笑しいという度を超えていて、不自然の域にも達していたと思う。


「お前、それ、どうした」
「ん?んー、切った!」


笑顔で元気に答える慶次に俺は何も言えなかった。どうにも情報処理に頭が追いついていないようだ。どうして、ってそりゃ、何時もあるものがそこに存在していなかったから。
というのも、普段高く結われている髪の束が無い。あの、トレードマークの、長い間伸ばされた鳶色の髪が、肩に掛からない程度の長さになっていた。これには流石に驚くなというほうが無理な話。


「ほんとは、量減らして髪を軽くしてもらうだけだったんだ。でも美容師のお姉さんがさ」
「短い姿も見てみたい、なんて言われたのかこの野郎」
「ちちち、違うって!その人、まだお店に付いてから日が浅いって言うから!」


で、気付いたら、練習がてらにバッサリ切ってくれて構わない、なんて口が滑ったとかなんて馬鹿な奴なんだ。ちょっと勿体ないことしたかな?なんておどけたように言ってるけど俺は納得出来たもんじゃねえ。きっと女だって慶次の人の良さに付け込んだんじゃないのだろうか、可能性としては充分有り得る。


「でも、政宗も幸村も佐助も似合ってるって言ってくれたんだぜ?」
「そうかい、良かったじゃねえか」
「元就も、半兵衛も」
「へえ」
「…元親は、言わねえのな」


なんで他の学部の奴らを持ち出すんだよ、とは言わなかったが、そうか、あいつらにも見せたのか。そして似合うとのお墨付きも貰っているときた。子供っぽいかもしれないけど、それなら尚更この劇的変化を同じ褒め言葉で評価したくなかった。
そりゃ、どんな慶次も好きだと胸を張って言える。ただやはり、目の前の彼は、他の奴らの奇異の視線に晒されたわけで、少し気に入らない。短くなってさっぱりした慶次の髪を親指と人差し指でそっと掴んだ。


「俺は長い方が好きだ」
「元親」
「お前はどうか知らないけどなあ」


くしゃりくしゃりと髪を掻き混ぜる。確かに量が減ったような感触だった。ああ、でもやはり後ろの束ねた髪が無いのは殺風景だ。このまま短いままで居たい、とか言い出したりしないでほしい。


「髪、本当に、長い方がいい?」
「ああ」
「…じゃあ俺も長い方がいい」


みんなが褒めるから、元親も褒めるのかなって思ってた。だけど、長い方がいいってちゃんと言ってくれて、俺すげえ嬉しかった。

いけない。恥ずかしそうに笑う慶次にグッときた。あー、可愛いな、と思わず口に出てしまった言葉に、馬鹿じゃねーの!と抗議された。そうだ、またあの長さに戻るまで、今度は俺が髪を整えてやりたいとも思った。それはやりすぎだろうか。そう言うと、それも悪くないよ!と言ってくれる。


「安心しろ、スケベは髪伸びるの早えらしいから」
「なんだーそれ元親のことじゃん」


ちくしょう、言ってくれるじゃねえか。



ポニーテールと恋愛論







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