(小十慶+政宗と幸村)





「手加減は無しですぞ、政宗殿」
「Ha!馬鹿言ってんじゃねぇ、俺がそんな男に見えるのか」


今日も今日とて自身の主の元に最大の好敵手が城へやって来るのはそう珍しい事では無いが、今回は少し例外だった。
対照的な青と赤が対峙する中で自分の隣に腰を下ろして傍観する黄の存在はやはり異質だった。未だに慣れない隣の男はどちらの味方につくわけでもなく、二人とも頑張れ、と声を張り上げていた。


「見ているだけなんて、珍しいな」
「俺だって出来るなら混ぜて欲しいよ。でも、それは野暮ってもんだろ」


真剣な二人の間にこんな酔狂な男が混ざったならば確かに興を削ぐことになる。それは自らも重々承知している様子なのか、刃の音が激しく鳴り響く前方を見つめながら持て成した茶を啜っている。若いっていいなぁ、と呟くが、俺にしてみればお前もまだ若造だ、そう言ってやると照れたようにはにかまれた。

何時もと同じであれば剣の交わし合いはもう暫く続くことになるだろう。その間は手を出すことも声を掛けることもできないのであれば、せめて隣の暇潰し相手になるくらいは出来るかもしれない。日頃のまだまだ若い君主の移り気な性格への適応力を見せるときがきた。
まずは茶請けが必要だろうか。以前政宗様が執務の息抜きに作ってらっしゃったものが残ってたことを思い出して、離れまで取りに行こうと立ち上がったところ、衣服の裾を掴まれ座り戻された。前田が如何にもやってしまった、という顔をしている。


「お、俺さ、あんたと茶飲むの、好きみたい」


そう言って湯呑みに入った茶を一気に飲み干した。そのまま、あー、お茶熱かったなぁー、と言いながら頬を掌で叩きだした。確かにそこは仄かに色付いていた。
成る程、これは、好意と受け取ってよいものなのか。自分の分の茶を飲みながら前田の言葉を頭の中で復唱していた。悪い気はしないし茶の相手に好ましいことにも光栄だと思った。


「ほら、注いでやろうか」
「…その余裕が少し憎い」
「だからお前はまだ若いんだよ」


指の腹で色付いたそこをなぞってやれば、少し俯いて深い溜息をついた。それに笑ってやると透かさず湯呑みを差し出し、入れて下さいと小さな声が聞こえてきた。解りやすくて飽きない奴だ。政宗様と真田の剣の交わりが終わるまで退屈せずに済みそうでよかったと思った。



右目から捉われる






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -