(家三/現代仕様)





「みつなりぃー!」


屋上でひとり、昼食をとっていた時の事だった。鼓膜が揺さ振られるような大きい声と響き渡る足音で自分を呼んだ相手の顔が嫌でも浮かぶ。弁当を突いていた箸を口元に寄せた瞬間、身体に強い衝撃が全力で当たり手から箸が落ちる。からん、と渇いた音を響かせて転がったそれはあまりにも滑稽な姿だった。ああ、あああ。握った拳に全ての力が集まる。


「家康……ッ!!」
「おぉー、お前元気だなぁ」


よかったよかった、そう言いながら首に腕を回して頭を掻き回された。少し痛いくらいの乱暴さにはもう慣れたものだ。握り締めていた拳をゆるゆると解いて、床に落ちた箸を拾う。このままでは使い物にならないようだ。後で水で洗い流してこよう。
隣に腰を下ろした家康に弁当のおかずを横から摘まれた。うめえ、さすが三成、顔を緩ませて食べる姿は宛ら栗鼠のよう。懲りずに摘もうとしてきたので左手で顔を押し退けて遠ざけた。


「なぁ三成、いい加減ワシにも作ってくれないか」
「断る。お前に作る義務は無い」
「そんなことはないぞ」
「何を、」


人が言いかけた時に限って話を遮るような真似をするのがこの男だ。身を乗り出すように私の顔の横にあるフェンスを掴んだのか、お互いの顔の距離が数センチに縮まる。息遣いも聴こえるようなそんな距離で一寸も逸れることなく瞳の奥を見合うことは苦では無かった、が、ただ一つ問題なのはこの忙しない心音が相手に聴こえてはないかという杞憂だった。

突然、何の前触れも無く肉の薄い頬を掴まれた。家康の大きくて逞しい指先が肉を引っ張ったり揉んだりするのがとても伝わる。


「お前、細いからな。もっと食わねぇとワシが抱き折ってしまうかもしれねぇ」
「私がいつ、折れたことがあるか」
「なんなら今やって、」


まだ話の途中だった奴の胸元に食べかけの弁当を押し付けた。脇の下をくぐり抜けて立ち上がって時計を見る。昼休みが終わるまであと10分。なぁ、箸はー?と自らが落としたきっかけを作ったにも関わらず図々しく強請ってくる家康へ、先程の箸を洗って渡しに戻る時間くらいはありそうだ。

ただ今更ながらに毎朝甲斐甲斐しく弁当を作ってやるよりも今この場で抱き折られていたほうが楽だったかもしれないと僅かな後悔をしている、とは死んでも思いたくなかったけれど。

(やはりあの顔が憎々しい)







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