(政慶/現代仕様)





「こうやって防寒具着て、暖かいのに、暖かくないんだ」


その日は珍しく雪のちらつく寒空だった。天気予報でも今シーズン最大の寒波がこの地域を襲っていると言っていた気もする。隣に座る男は自身が言った通り上着も着込みご丁寧にマフラーも巻いている。
閑散とした公園にはやはり誰も居ない。備え付けのベンチに座る俺たち二人しか存在していないこの空間で、慶次はやけに神妙な顔でそうぼやいた。いつもの姿からは想像できない堕ちように少々狼狽えたものの、こいつの顔は真剣だ。


「やだなぁ俺。こんなのキャラじゃないし、政宗にも迷惑かけるし、あと」
「吐き出せばいいのに」
「うん?」
「全部吐き出して欲しい」


普段から饒舌野郎な癖に多くを語ろうとしないその姿勢が日頃から気に障っていた。嫌だ、と拒んだとしても慶次が溜め込んだものを全てとは言わないから表に吐露してほしかった。こんな健気すぎる俺の切実な願いを、この変に謙虚な男は受け止めるだろうか。
第一こんな雪とか降ってる悪天候に俺を呼んで「話し相手が欲しかった」なんて。例え冗談混じりに笑いながらだとしても期待はしてもいいんじゃねぇかな、とか。悶々とさせられたんだ、今度はお前が話をするかしないか大いに悩め。

無言を貫かれても待とうと思った。ちなみに俺は待つという行為そのものが大の苦手だった。どうしてもこの口から何か頼られている証が欲しかった。それくらい気にかけている存在を、易々と放っておけるわけが無い。


「はは、なんかいいねこういうの」
「っ、俺は全然良くねぇ」
「誰かに心配されるとか、嬉しいな」


寒さで鼻を真っ赤にさせてこちらに向き返る慶次の笑顔は酷いものだった。悪い意味では無い。今まで見たことのない破顔の仕方、ふにゃりと崩して整った顔がまるで台無しだ。
本気で嬉しがる慶次に、こちらが恥ずかしくなる。でも、胸が。胸が愛しさで一杯になる充実感はたまらなかった。

気付くと俺はキスをした。あまりに無意識で勝手な行動に後々しまった、と冷静になる。ああ、にしても暖かい。体温の高さにくらくらする。
ちゅ、と音を立てて唇を離して初めて気付いたことだが、瞳を潤ました慶次は壮絶な色気だった。恥じらう隙も与えず再び距離を縮める。すると今まで流されつつあった慶次がやっと言葉を口にした。


「政宗、俺は、友達でいたい」
「じゃあなんで抵抗しねぇ」
「だって、抵抗できなかった」
「嘘だ。そんなに嫌か、」
「え、」
「本音言うのも、キスされんのも、そんなに嫌か」


嫌なら止める。でも恐れや迷いからの躊躇なら許さない。

ただ、俺は友人でありながら友人以上の存在でも在りたかった。何時から、だとか意識したことは無かったけれど、別段動揺することなくこいつを必死こいて求める自分を認めた。だから今更欲張りだと言われても開き直るだけだ。
我ながら自分勝手だと思う。でも慶次自身の口から答えが欲しかった。

(嗚呼、くそ、寒みぃなあ)

全身の力を抜くように吐いた息が白く色付いて寒々しく消えていった。






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