<だって気になるから/黒田>
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「動くな!かんべえええ」
「え?」
小走りで近づいて来る、小さな体。官兵衛は最初、少女が何をしたいのか分からずそちらを見て立ち止まっていた。
「覚悟オオオオ!」
再び、疑問が生まれた時には既に遅い。少女が持っていた刀は、官兵衛の額すれすれを通って地面に突き刺さった。
「好きです、官兵衛さん!」
「この状況で言うことか?!」
高鳴る心臓、湧き出る冷や汗を落ち着けながら、官兵衛は一歩後ずさった。
目の前の少女は刀を鞘におさめることなく、むしろ構えてこちらに詰め寄ってくる。
「お慕いしています」
「ちょ、苺落ち着け!
小生が何をした!」
少女は若い女ながらも、戦場でも活躍する強い武将。
刀が当たったら一たまりもない。
そんな少女は刀を庭の土にザクリと突き立て、恥ずかしそうに俯く。
「私、官兵衛様が本当に好きなんです」
「あ、ああ!
それなら刀をしまって…!」
「だから…」
じゃり。
どこか生々しい音をたてて刀が土から抜かれ、構えられる。
「その前髪を切らせてくださいませ!」
軽く、そして素早く。
華麗に跳躍する少女を見て、官兵衛は気が遠くなるのを感じた。
*
あの前髪を切りたいのは私だけでしょうか
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