<つかまえた/伊達>


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「苺…苺」

彼が私の名前を呼んでいる。
薄暗い中、彼は目の前にいるのにどうしても触れられない。すまない、すまないと彼が謝る度に私は無性に泣きたくなる。私も謝りたいのに声が出ない。手を伸ばしても伸ばしても、彼には届かなかった。


「Hey、本田苺
目は覚めたか」

何故目の前に敵がいるのか。何故私は牢にいるのか。
戦はどうなった?…彼は?
溢れる疑問と共に混乱が訪れて、ぐるぐると私の頭を掻き回した。

「三成…」
「石田はここにはいねえぜ」

私はふっと目の前に敵がいるのを思い出して、硬い地面だけを見ていた目線を上にあげる。その眼帯の男には見覚えがあった。

小田原で、三成が倒した男。私もその場にいたんだから忘れるわけがない。それを除いたとしても、この男は奥州を治める伊達軍の主として知っていた。

「伊達政宗…!
三成はどこ!?刑部は!?」
「Shut up!」

異国語で怒鳴った伊達は、じゃらりと鳴る鎖を引っ張りあげる。それは私の手枷に繋がっていたらしく、体のバランスがとれなくなった私は引きずられるように俯せに倒れた後に顎を地面に打ち付けた。

「っ…」


そうだ、西軍は戦に負けたんだ。
私の脳裏を、意識を失う前の出来事がよぎった。

『家康、お願いだから三成を殺さないで!
私は殺してもいいから!
三成は今頭に血がのぼってるだけなの!』
『分かってる
苺も三成も、儂が連れて帰る
だから今は少しだけ眠っていてくれ』


家康は、そう確かに言った。
感謝してもしきれない。

「石田は徳川のところだ
大谷って奴は死んだ」

私の考えを察したのか、伊達は鎖を放さないままそう言った。安堵と虚無の念が押し寄せ、私は体から力が抜けるのを感じる。

「徳川はアンタも連れて帰るつもりだったらしいが、残念だったな」
「三成さえ助かれば私はどうでもいい
斬るも拷問するもご勝手にどうぞ」
「Ah?命乞いはしねえんだな」
「西軍は負けたんだから、それに刑部が命を落として私が生きてるなんて嫌」

ククッ、何故か伊達は楽しそうに喉を鳴らして笑った。そして鎖を引き寄せ私の耳に顔を寄せた。

「良いねぇアンタ」
「何が…っ」
「俺はアンタを殺さねぇし、拷問もしねえ
ただ…黙って抱かれてりゃあいい」

そう言った伊達の目は酷く哀しそうで、美しく。
私は視線を逸らすことができなかった。


(ずっと前からアンタを見ていた)
(何故そんなに優しくするの)



*
鬼畜にしたかったのに、なりきれなかった伊達

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