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「幸村殿!よくぞ無事で!」
「お帰りなさいませ、幸村様!」

お見合い騒動を終え、平和に過ごした幸村さんご一行と私は数週間後、無事に上田に帰還した。
わらわらと待機していた人達が幸村さんを囲む風景を。私は。


「…帰ってきて早々に、お使いですか」
「俺様だけじゃちょっとねー。たまには2人で出掛けようよ、七海ちゃん」

少し離れた所で見ながら、絶賛何故か佐助さんとお使いに出かけるところだ。幸村さん可愛い。大阪城の大きさを、腕を万歳してみんなに伝えている。横では小山田さんが微笑ましそうに見守っていた。

「はい、旦那が気になるのは分かるけど!さくさく歩く!」
「…面倒くさいです」

数週間に及ぶ旅の疲れで、正直ガタがすごいんですよ。特に尻とかね。3つに割れてるんじゃないかな!

「仕方がないなあ。よっ、と」

ぐらりと視界が急激に高く変わる。浮遊感。佐助さんに持ち上げられていた。
おお……また乙ゲー展開。

「ちょ、佐助さん降ろしてくださいよー」

満更でもない声で(だって超楽)、形だけの拒否をしていたその時。

「ちゃんと掴まってないと落としちゃうからね!」
「えー?え………ぎゃあああああああああ!」

え、ちょ、葉っぱがカサカサしてる。何故木の上?
空飛んでるんじゃないかって位、速くて浮いてる感覚。新手のジェットコースター。you are shinobi。but。

「あいあむ一般人んんんん!真田七海だあああ」
「相変わらずちゃっかりしてるねー七海ちゃん」

ぶっちゃけお使いの内容は覚えてない。お団子とか買ったのくらいしか。忍者やべえ。怖い。

「はあ…はあ…死ぬ」
「物騒なこと言わないの」

帰りはどうやら歩くらしく、佐助さんは私を降ろす。団子を抱えてふらふら歩くと、佐助さんがけらけら笑った。

「…七海ちゃんが、無事に帰ってこれてよかった」
「三成さん的な意味で?」
「うん。気に入られてたけど、取り消しになって安心した」
「斬首フラグとか色々ありましたけどね…」

田畑に囲まれた道を歩きながら、佐助さんはふと真面目な顔になって私の髪を撫でた。視線は、私の胸のところに固定された簪に向けられている。

「旦那がこの簪の事話してたよ。石田の旦那に買ってもらったんでしょ?」


そういえば、数日前に幸村さんに簪について聞かれた。

『七海殿、見かけない簪でござるな?』
『あ、これですか?』
『綺麗であったゆえ!』
『(笑顔ぺろぺろ)これ三成さんから頂いたんですよ』

そういえば、その後すぐ小山田さんに呼ばれて話せなかった。ま、まさか…!

「う、浮気って言ってましたか!?尻軽女とか!?」
「言ってないけど、ちょ、揺さぶるの止めて…!」

あ、最近髪を洗ってるとき上腕二等筋が出るようになりました。むきむき。

「むしろ朗報だから!一回しか言わないから、聞き逃さないようにね」

お団子の包みを握りしめ、佐助さんの言葉を待つ。朗報って良いニュースだよね?じゃあ吉報は?あ、あれ?ゲシュタルト崩壊!

頭を抱えていると、あっという間に幸村さんに変装した佐助さんが私を覗き込んできた。完成度!完成度!

『七海殿が、三成殿から髪飾りを貰ったと言っていて、だな。七海殿は、最近こちらに来たばかりで寂しい思いをしていたと思うから、だからすごく良いと思う。仲良しは良い事と、前にお館様も言っていた。それで、だけど、七海殿が誰かに連れていかれそうになると妙な気分になるのだ。…友達が増えるのは良いことなのに。それゆえ、俺は…』

「って。旦那が言ってたよ」

んー…?
幸村さん(仮)が可愛いくてよく分からなかった。へら、と誤魔化すように笑って佐助さんにつまり?と尋ねる。

「旦那は、七海ちゃんが他の人と仲良くして嫉妬してたんだよ。無意識にね……あれ?七海ちゃん?」


な ん だ そ り ゃ !
嬉しいんだか混乱してるんだか、自分でも曖昧なままとりあえず走る。上田城はもう目の前だ。
門を走り抜け、おかえりなさいと言ってくれる皆さんに頭を下げながらも、幸村さんの部屋に向かった。


「幸村さぁああああん!」
「七海殿ぉぉおおおっ!」

部屋の前で叫ぶと、予想通り幸村さんはすぐに出てきてくれた。珍しく着流し姿であった為少し目をとられたけど、間髪入れずに抱きつく。幸村さんの匂い、胸板ハスハス。七海は今日も元気です!!!

「七海殿っ…い、如何致した!?」
「私が好きなのは幸村さんだけですから!本当に!幸村さんが、大好きです!」

想いと比例して、今までで一番強く抱きついてしまった気がした。最近の私の上腕二等筋事情的に大丈夫かしら。

「…そう言って貰えるのは、嬉しゅうござる。某も七海殿の事、お慕い申し上げてございまする」

幸村さんは顔を赤くして、やんわり私を抱き締める。ひどく温かい感触であった。




という夢を見たんだ、という訳でもなく!
頬を摘まんでも摘まんでも痛くて、叩いても痛い。
夢じゃないと理解すると、身体や顔が熱くなるのを、私は抑える術が分からなかった。



(期待してもいいですか?)





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