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密室。
私は密室が苦手である。
自室とか自宅、または上田城とかなら好きだけど!
知らない場所で、しかもあまり仲の良くない人との密閉された空間などチキンの私には耐えられない。

「七海」

はい呼名入りました!呼名一回頂きましたー!これが斬首の合図なんですね分かります。


石田さん(と一応私)の部屋に連れていかれた私は、まさに死刑が決まった罪人のような気分である。
石田さん+私+密室=殺人事件。
当たり前みたいに頭の中で方程式が組み立てられた。脂汗が全身から滲み出る気がする。

「七海」
「うわああああすいませんすいませんさっきは生意気こいてすいませんでした!」

恐怖のあまりにペコペコ頭を下げ、シャッと素早く正座→土下座のコンボを決めた私であったが、石田さんは訝しげに眉をあげている。な、何かまだご不満ですかーー!

「謝るな。それ以上謝ったら殺す」

な、何て横暴なんだ石田さああん!
がしゃん、がしゃんと刀を揺らしながら私の目の前に膝をついた石田さんに、少しだけ体をびくつかせる。
白い手が私の頬に伸びた。何されるんだろ。


「……さっきは、悪かった」

ひりひりと触られた箇所が痛む。ああそうだ。さっき叩かれたのか。幸村さんが大丈夫でござるか?とこっそり心配してくれたのはこれか!

「…いえ、私こそお仕事の邪魔をしまして、すみません」

というかそんなに素直に謝られるのは正直驚いた。気が抜けて、足を崩して座り込んでいると、今度は石田さんの差し出された握り拳から何かが落ちる。慌てて両手で挟んでそれを受け取った。

「…何故固まる」
「開けていいですか?」
「構わん」

くっついた自分の手のひらを、そうっと開く。目とかだったらどうしよう。

「…!」

ベタな展開に、目を見開く。
私の手の中には、小さいながら華やかな白い花が咲いていた。街へ出掛けた時に、一目惚れした簪だ。

「石田さん…これ」
「詫びだと思って受けとれ」

な…なん、だと…!?
あの鬼だか石田さんだか鬼だか石田さんが分かんない石田さんが!

さらに簪を髪に添えてくれた石田さんに、私は慌てて何故か!自分が元々付けていた簪を石田さんに刺した。

「…何をする」
「紫、石田さんに似合います」

彼は不満げのようで、でも取ることはしない。石田さんが、可愛い。

「へへ…簪、ありがとうございました。可愛いです。大切にしますね」

へらへらと情けなく破顔する位嬉しい。仲良くなれた気がして、何かもっと話したいなー、と顔を上げたと同時に。私の体は組み敷かれていた。


「…七海、お前が良いなら、私はお前を正室に貰う」

―予想外にも、程がある言葉だった。なんで。なんで私を?

「…っ」
「お前は、真田が好きか」

どうしてそんなに悲しそうなのか。私までつられて悲しくなる。整った顔立ちに、紫の簪はよく映えていた。

私の返事は、決まっている。


「大好きです、幸村さん、すごい大好きです。幸村さんが、世界で一番」

私の声は、何とも言えず震えていた。
口はカラカラなのに、目からは涙が滲む。

「でも、石田さんにそう言って貰えるのも、簪も、今までの事も、全部すごく嬉しかった。これは本当です。最初は、自分勝手だし怖いし嫌だなって思ったのに、ずるいですよ」

石田さんはうつむいたまま何も言わない。顔の真横の白くて長い指は、布団をきつく握り。
ぱっと上げられた顔は、初めて見る笑顔だった。
やっぱり少し嘲るようで、でも悪意はない。

「ふん。それでこそお前だ。私の、そして何より秀吉様と半兵衛様の目にかかれたことを光栄に思え」

笑っちゃう位石田さんらしいセリフだ。
思わず笑うと、覚悟しろ、と石田さんが片手で私の顔を掴む。え、まさかこっからの斬首ルート…?フェイント…?

「お前が真田の正室になろうと、いつか私は貴様を手に入れる。豊臣の名にかけて」

そ、そんなに!
あの豊臣の名にかけるほどか!恥ずかしいな!ときめくからやめろ。

石田さんは、いつものように鼻を鳴らし、刀をがしゃんと揺らして私の上から退いていく。

あ、これトゥルーエンド…ですか、ね?


*




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