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私が悪いのか、三成さんが悪いのか。私の心は、多少…いや大分もやもやしていた。

大嫌い、と私に怒鳴りあげられた目の前の三成さんは、珍しく目を見開いた気がした。
そして、すぐに眉間にいつものようなシワを戻して踵を返す。

「…帰るぞ」

低い、唸るような声ではあったけど、私に怒っているとかそういう訳ではないようだ。
涙も拭かずに俯きっぱなしの私に痺れを切らし、手首を掴んだ三成さんは城へと歩き出す。

この前とは違って、三成さんは私に合わせて歩いてくれているようで、それがまた辛かった。



「お帰り三成君、秀吉が呼んでいたよ」

城へ着いて早々、私達を出迎えたのは竹中さんだった。秀吉公というワードと竹中さんの出迎えというダブルパンチにやられた三成さんは、当然風のような速さで城内へと走り去る。

「…どうだい。七海君は、僕とお茶でも」

断らせる気なんて無いくせに、と悪態が零れかけたが、三成さんについて相談に乗ってくれるなら彼が適任だと思う。

「私めでよろしいのでしょうか?」

慣れない言葉で返した私を、竹中さんは鼻で笑った。



*****

嬉しさ九割、気まずさ一割。
竹中さんの部屋でぴん、と背筋を張って迎えてくれたのは可愛い可愛い幸村さんであった。

開いた口が塞がらない。何故このタイミングで幸村さん。だめだ、泣きそう。何か幸村さん見ただけで泣きそう。

ばっと顔を伏せてよそよそしく部屋に入った私を見て、竹中さんが笑顔で言う。

“僕の前では素で良いよ”と。

嬉しさ三割、焦りが七割。
幸村さんは困ったように眉をよせていた。(可愛い)

「は…?な、ちょっと…よく分からないです」
「君は死ぬ程、真田幸村君が好きだって聞いたんだけど?」

こちらに話を振る竹中さんは、気のせいか非常に楽しそうである。

「真田君の忍から話は聞いたよ。君が武田の血を引いていない事、じきに代わりに本物の親族の娘が来ること、それから」

え、代わりの人来るの?なにそれ聞いてない。てか武田の血…ばらしたの?は?

「七海君、真田君と将来を誓ったらしいね」
「はいすいませんでしたぁあああぁっ!」

とりあえず先手必勝、謝るが勝ち。思い切り頭を下げると、向かいで幸村さんも頭を下げていた。

「君たちは何に謝罪してるんだい?」

竹中さんは心底おかしそうに喉を鳴らして笑っている。美人だ、本当に。

「別に僕は怒ってないし、秀吉に言うつもりもないよ。代わりが来るなら秀吉も文句は言わないし、むしろ七海君には感謝しているしね」

感謝、というのは今の状況にひどく不釣り合いな言葉で、何か悪い事への伏線なのかとか、裏があるのかとか疑ってしまう。

「感謝、ですか」

竹中さんは畳に腰を降ろして、幸村さんと私にも座るように促した。
とりあえずは言葉通りにするも、緊張で身体はガチガチだ。

「そんなに固くならなくて良い。
…君はこの僅かな時間で、確実に三成君を変えた。今まで豊臣の事で占められていた頭に、七海君の存在が現れ始めている。君が三成君を良い方へ変えてくれた」

まだ竹中さんと目を合わせる勇気が出ず、目の前に出されたお茶の茶柱に視線を集中させる。

「…あの、そんな大層な事、私してませんよ?」
「長年三成君を育てた僕に反論するのかい?」

シット。最初から私の意見は聞かない気か。
そして石田さんを変えた云々は本当に身に覚えがないというか、過大評価は止めていただきたいよ幸村さんそんなキラキラした目をしないで!

「三成君が女の子の事であれこれ悩んでいるのは非常に新鮮で良かったよ。―だから」
「だから?」

ごくり、と思わず固唾を飲む。竹中さんはシュッとした目を細めて、白い指を私の顔に這わせた。

「見合いの判断は三成君に任せる。代わりもいるから問題ないし、僕は口を出さないよ」
「え、本当ですか?でもそれなら絶対破綻ですよ」

…うん、絶対破綻。この喧嘩状態で三成さんがお見合いを受ける訳がない。


「…さあ果たしてそうかな?」

竹中さんの言葉に何故か不安になる。自惚れかもしれないが幸村さんの瞳も揺れた気がした。


「半兵様」

その時、壁を一枚挟んだ向こうから唸るような低い声が聞こえた。
笑顔の竹中さんがどうぞ、と声をかければ頭を一度下げて彼が部屋に踏み込み、さらに一言。

「七海を、お借りします」

ああ、選択肢は二つに一つ。

▼死ぬ
▼殺られる


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