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甲斐の城下町はいろいろな物があってとても楽しかった。


だがしかしbut。
大阪もすごいですな!


「うわあうわああれは何ですか石田さん!」
「貴様は本当に煩わし…だから勝手に歩き回るな!」

城を出てから石田さんに怒鳴られた数、果たしてこれで何回目なのだろうか。綺麗な藤色の着物の襟は、石田さんに掴まれまくってよれよれである。

「お姉さん美人だね!簪でも見ていかないかい?」
「うっひょ!石田さん私美人らしいですよ!」

ドヤアと不満げな石田さんを見つめれば、世辞だと一刀両断された。知ってるよ!冗談だよ!
幸村さんならここで肯定してくれるんだろうなあ…。うう、優しい。

そう思いつつ、簪屋さんを少し覗くと綺麗な華のモチーフのものが目につく。

百合?なのかな?花にはあまり詳しくない為分からないけれど、白色の花の簪だ。
白の簪は何だか珍しく、派手すぎない素朴な可愛さは魅力的である。

「ね、石田さん!これ素敵ですよね」
「お嬢さん、団子はいかがかな」
「はいはい!はーい!」

色気より食い気。花より団子。
私の手元を覗きこんだ石田さんを置いて私は団子屋さんにホイホイされた。

少しして、団子屋さんの前で石のように動かない私のところにやって来た石田さんは、不満げながらに団子屋さんに入るのを許してくれた。



「私は断然甘い団子派ですが、石田さんは?」

団子屋に入り、好きな物を頼んでいいとのお許しを頂いた私は遠慮なく団子を3本注文した。あと白玉ぜんざいも。

ちょうど運ばれてきたぜんざいはとても美味しそうだ。現代を思い出す。

「私はあまり食は好かん。必要最低限だ」

「えっ?!やだ何それ人生損してるよ石田さん」
「秀吉様と半兵衛様に出会った時点で、損などしていない」

あまりにはっきり言い切られ、こちらも反論のしようがない。
石田さんの面持ちは普段より、心なしか穏やかだ。(とはいえ一般人よりは険しい)

「石田さん、本当にお二人が好きなんですね」
「無論だ。お二人が居なければ私は今ここに居ない」

ほう。そこまで言うのだから、石田さんは二人にそうとう恩があり、尊敬しているんだろう。

「じゃあ私は秀吉公と竹中さんのお目にかかる事が出来て、甘い物の美味しさも分かって…得だらけですね」
「ふっ…秀吉様と半兵衛様に感謝の意を示しひれ伏すといい」

誇らしげに、そして私を見下すように言う石田さん。すんごいドヤ顔。むかつく。

「私すごい幸せです。石田さんにも分けてあげましょう!」
「要らん世…話!」

匙を突き刺すように、石田さんの唇に入れる。甘い白玉とあんこは、栄養不足の体にさぞ染みるだろう。

「ぐっ…貴様ぁ…」
「私の幸せ半分分けてあげましたよー」

今度はこちらがドヤ顔をする番だ。
甘い物は得意でなかったのか、石田さんは慌てて緑茶を飲み込んでいた。

*****

「あー、楽しかったですね!」
「城下町ごときではしゃぎすぎだ」

街をぐるっと一周見て、石田さんの買い物などにも付き合わせてもらったりもして、時間はあっという間に過ぎた。お昼はうどんを頂き、素直に楽しかった気がする。
数時間前まであんなに幸村さんが恋しかったのに。

(もしかして私って尻軽…!?い、嫌だ…!)

自己嫌悪にふける私にさらに追い討ちをかけるように、ドンッと急に体が揺れる。

「オイオイ嬢ちゃん。こんなとこに突っ立ってんじゃねぇぞ!」
「は…?え?」
「詫びずにシラを切るってか!?」

いやいやいや!
そんなに怒鳴られる意味が分からない!
私ちゃんと前見てた!あなたわざとぶつかってきた。

…質悪いなあ。
とりあえず隙をついて逃げようとした私を、柄の悪い男は逃がしてはくれない。
突然手首を握られ、驚く。

「いったい…!離してください!」
「ちょっと着いてこい。詫びはそこでゆっくり貰う」

訳が分からない!
手首がしびれ、そこに熱が集まる感じがする。
周りに人はいない。多分そういう道で、こいつはここで女を狙っているんだろう。
つか、石田さんどこだ!
やばい、手首、手首なくなる。


「貴様……この女に何をしている」
「あぁ?…あ、アンタ!?」

神展開。これなんて乙ゲー?
石田さんはすぐに男の首を掴み、ひねりあげた。(く、苦しそう!)

「秀吉様の街を汚す行為は許さん。斬首だ」
「ひっ…。い、石田様!?お許しを…」

ああ、石田さん、やはり町の人には顔が知れてるんだなあ。
石田さんは男を地面に投げ捨て、頭を踏むと刀を抜いた。これが斬首?斬首…。

「ま、待ってください!」
「っ!」

振りかぶった刀が私に腕を掴まれたことによりぶれる。ひゅんっ、と弧を描いた刀の切っ先が頬を擦り、目を丸くした石田さんと視線が合う。

あ、男が逃げた。
そして当然追おうとする石田さんを必死に止める。

「何故邪魔をする!!」
「う…だって目の前で斬首とか…!」

ぱん、
今日はよく破裂音を聞く日だ。
石田さんはおっかない顔をして、真っ白な手で私を叩いた。その衝撃で、頬の、刀で切られた部分から血が伝う。

「…これだから貴様のような箱入りの女は!
あの男は最近よく罪を犯している強姦犯だ!ここで逃さなければ…」


「意味が分かりません」

ふつふつ、怒りが込み上げる。握られていた手首は鬱血していて痛い。叩かれた頬は熱を持ち、腫れてきた。切り傷から血も止まらない。

「確かに、犯罪者を捕まえる邪魔をしたのは悪かったです。ごめんなさい」

石田さんは眉間に大量のシワを寄せて私を見ている。
くそ、くそ!

パシン、今度はさっきより小さめの破裂音だ。
私の手に、熱が集まる。
石田さんの白い肌、私はそれを思い切り叩いた。自然と涙が出る。

「だからってそんなに怒る事ないじゃないですか!!私だってあの人に絡まれてあり得ない程怖かったし、斬首とかは見慣れてないし、本当は石田さんが助けてくれて嬉しかったのに…」

涙も、怒りも収まらない。
私はぐちゃぐちゃの顔で、呆然とする石田さんを怒鳴りつけた。


「石田さんなんて大嫌いです!」




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