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―良かった…七海、死んじゃったかと思った!
―七海!心配したんだからね!
―桐生、目が覚めて良かったな。

セーラー服を着て、気に入っていた花のピンをつけた私を、クラスメイト達が囲んでいる。
何だ何だ。みんな騒がしい。あの金村君まで私に話しかけているし。

―ありがとう。
また普通に過ごせると思うと、嬉しい。

へらっと笑った私が、クラスメイト達を見回してそう言った。その時。


「ならば、暫し、いや二度と七海殿とお話することはできぬ…という事でござろうか」

―幸村さん。
いつものように真っ赤な鎧に身を包んでいる彼は、悲しそうに目を伏せた。

「七海殿が、慣れ親しんだ元の居場所へ帰りたいと思う気持ち、重々承知致しておりまする。
ただ、七海殿と過ごせた時は…」

幸村さんがくるりと踵を返して、遠くへと歩き出した。
違う、違うんです幸村さん。
私は向こうにいる家族も友達も大好きだけれど、ふざけた気持ちでなく、本当に、本当に幸村さんが好きなんですから!だから!


「…行かないでくださいっ!」

「………あー。この場合どんな仕事より七海ちゃん優先しちゃうべきだよね」

…あれ?
私はうやむやだった意識を取り戻し、改めて周囲、というか目の前を確認した。

「お、お母さん!」
「や、違うから」

なんたるミス。
私が先程からぎゅうぎゅうにハグしていた相手は幸村さんでなく、オカン。佐助さん。

「忍務に行く途中に七海ちゃんの部屋寄ってこうと思ったらさ、うなされてて…」
「私うなされてましたか?」
「うん。そりゃあもう苦しそうにね。で、いきなり俺様に抱きついてきた」

怖い夢というか、不吉な夢だった。幸村さんと離ればなれになるのは嫌だし、辛い。

「佐助さん。幸村さんに会いたいです」
「…うん」
「会いたい…」

思い浮かべるのは、幸村さんの笑顔。毎日会っていたせいで、こんな少しでも離れると寂しいなんて情けない。でも会いたいものは会いたいのだ。

「七海ちゃん」
「は…い?」


佐助さんとは、幸村さんと同じだけ信用も信頼もしていた。でもこうして力強く抱きしめられたのは初めてかもしれない。佐助さんの服は驚くくらい無臭で、幸村さんより体温が低いなあと、ぼんやりと思った。

「佐助さん…」
「旦那の変装とかした方が良かった?」
「いえ。お母さんって感じで落ち着きます」

佐助さんは布団の上に胡座をかいて、私を抱きしめたまま笑う。

「七海ちゃん」
「はい?」

耳元で囁かれた真剣な佐助さんの声音に少しだけ心臓が大きく鼓動した、その時。

「やばい。石田の旦那が来―」
「ええっ?!」

なにそれやばい。
咄嗟に身を引いた私は、
この状況を見られまいと佐助さんと離れた。

「いっ…七海ちゃん…?!」

というか、キックをかました。


「……おい小娘。貴様何をしている」

パァンッと障子を滑らせた三成さんが、怪訝そうに私の方を見ている。
私は寝間着のまま掛け布団の上に座り、片足を上げているなう。そりゃあ石田さんもこんな顔するだろう。

佐助さんは、すごい勢いでどこかに隠れてしまった。あの俊敏性はさすが忍者!

…というか。やばいと思った時佐助さんを蹴った事が気がかりだ。かなりの手応えがあった。痣にならないといいな!まあ女子高生のにわかキックごときでそれはないか!


「おい小娘!」
「は、はいっ?!
いきなり大声出すの止めてくださいよ石田さん!」
「さっきから呼んでいただろう…!」
「小娘じゃ分かりませんー!私七海ですもん」

石田さんは案の定、苛立ちを隠さないで盛大な舌打ちをかましてくださった。

「…七海!」
「何ですか!」

石田さんは小脇に抱えていた包みを私に(というか顔面!)押し付け、眉間に数本のシワを刻んだまま唸るように言い放った。

「出かける支度をしろ」

次いで、紫の簪が手のひらに乱暴に置かれる。

「町に行くぞ」

…どうやら私、大阪の城下町デビューのようです。


******

「うーん…石田の旦那、惚れ込んでるな」

七海を置いて乱暴に部屋を出た三成を庭の木の上から見ながら、佐助は呟く。
今日七海と三成が城下町へ出かけることについては知っている。

「…」

ありとあらゆる事を心配しながら、佐助は忍務の為にと木から飛び立つ。

「てか七海ちゃんに蹴られたとこ…痣になるな」


*




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