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クラスの金村君。彼は人望と信頼を持った最強の学級委員だった。運動神経が良く、明るく隔たりのない性格。顔も体格も良い。ええ、もちろんモテました。先生からも評判で。部活はインターハイレベルで。


「徳川さん、めちゃくちゃ金村君に似てるよなあ」
「ワシがどうかしたのか?」
「いえ!全くどうしもしません!」

こんにちは七海 でございます。鬼畜ホモ美青年竹中さんからの圧力にすくむ足でなんとか部屋を脱出すると、待っていたのは徳川さんだった。
急な用事ができて今日中に此所を発つことになったから、今から少し一緒に出かけないかとお誘いをいただいた。断る理由もなく、素直に徳川さんの後をついてきて早十分。下は草だらけ。人気のない道。こ、怖いぞ。


「あの、徳川さん。こちらは何処行きでしょうか?」
「七海、花は好きか?」

質問の答えにはなっていないんですがね、徳川さん。でも花は嫌いではないので、一応肯定の意を示す。

「なら良かった。ほら、こっちだ」

徳川さんは嬉しそうに顔を綻ばせて私の手を引く。徳川さんがわざわざ持ってきてくれたらしい、可愛いらしい黄色の着物につまづかないように気を付けつつ、手を引かれるままに歩いた。

「徳川さん、どうしたんです…か?」

ふわっ、と甘い香りと何かひらひらしたものが頬を打つ。
そして、息を飲むような美しい景色が目の前に広がった。絵に描いたような花畑だ。

「う、わあ…」

戦国時代というのはやはり今より空気が良いのだろうか。色とりどりの花と、透き通るように青い空。

「綺麗だろう?」
「はい!とっても!」

豊富な種類の花がそれぞれのびのびと咲き誇り、小さな蝶々が花の上をひらひら舞っていた。
元の世界なら合成を疑ったかもしれない。花畑は、それほどまでに綺麗で完璧な美しさだった。

隙間無く花が咲くそこを、木々が囲んでいる。そのひとつの木の下に腰かけた徳川さんは、団子の包みを広げて私を招いてくれた。

「三成は、どうだ?不器用だが、悪い奴ではないんだぞ」

その言葉に、もちもちとした美味しい団子を喉に詰まらせそうになりながらも私は吹き出す。

「徳川さんも竹中さんと同じような事言ってます!三成さん、愛され系ですね」

いや、あの雰囲気で愛され系ってのもおかしいかもしれないけれど。彼はどう見ても凶王ですからね。

「ワシはな、七海。三成と七海は似合ってると思うぞ」

どうにも反応しにくい。これで幸村さんが相手だったらどんなに良かっただろう。私はなるべく笑顔を保ったまま曖昧に相槌を打つ。徳川さんは少し眉を寄せて、私の手に自分の手を重ねた。それは幸村さんや佐助さんより、しいて言えばちょもちかさん大きくてゴツゴツしていた。

「七海は本当に真田が好きなんだな」
「大好きです!」

これだけは絶対、とばかりに声を張ると、徳川さんの表情は少しだけ困ったようだった。

「徳川さんも竹中さんも、三成さんのことを大切に思っていて尚、私をお見合い相手にぴったりって言ってくれるなら、本当に嬉しいんです」

少しうつむいた視界の中で、徳川さんの表情が和らいだのが分かる。

不思議な感じだ。
元の世界では、私は今は高校生な訳で、結婚なんて考えていなくて。

「ワシは、七海には好きに生きて欲しい」
「どうしてですか?」

徳川さんは、何故私に優しいのか。私に意見する権力なんて本当はない。今こうした時間も徳川さんの計らいが生んだものだ。

「七海のように素直でまっすぐな娘と話せば、自然にそう思う」
「…勝手に褒め言葉と解釈しますね」

徳川さんは心が広いというか、懐が大きいというか。
包容力のある人だ。

「ワシは、今の内に三成にもっと世界を知ってほしい。秀吉公への尊敬の念だけでなく、他にも人を愛する事とか、優しさとか」

団子が包まれていた布と紙がふわふわ風に乗って飛ばされる。春一番、強い風に私も徳川さんも瞼を閉じた。
ふと、今の内に、という徳川さんの何気ない一言を思い出す。そして次に脳裏によぎったのは高校の日本史の教科書や、社会の教科書に載っていたあの歴史的な戦だ。

「徳川さん、目を瞑ったままでいてください!」

徳川さんは戸惑いながらも目を閉じたままにしてくれた。


「…いいですよ」
「お?」

徳川さんの頭の上には花の冠。少し手で弄んでいた草花を、急いで編み込んだもの。色とりどりの花を使って妙に乙女チックになった花冠と、男らしい徳川さんがミスマッチで笑ってしまった。釣られたように、花冠に気づいた徳川さんも微笑む。

「この時代に、徳川さんみたいな武将さんに向かってこんなこと言うなんて起こられるかもしれませんが…私、あんまり戦は好きじゃないです。大切な人が死ぬのって悲しいです。
…徳川さんも、気をつけてくださいね」

徳川さんの逞しい腕が伸びて、垂らしっぱなしであった私の髪に一輪の花をさした。

「ワシが平和な世を築けた時に、もし七海が良いと言ってくれたらしたい事がある」
「何ですか?」

「七海とワシの、子供を作りたい!」


訂正。というか追記。
金村君は、下ネタが嫌いでした。

子供のくだりにうまく反応出来なかった私は、妙なうめき声をあげて苦々しく笑った。


(ていうか、雰囲気ぶち壊しですね!)







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