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「朝餉は、三成殿と七海殿と別なのか」
「そ、そうなんでしょう…ね…」

大阪城のある客間。
朝餉の吸い物の器を静かに盆の上に起き、比較的長い睫毛に縁取られた瞳を伏せた幸村を見て、佐助は黒目を右往左往させていた。
とても寂しそうな幸村を見ているのは佐助としても悲しいし、何より一晩を三成と共に過ごした七海が心配でならなかった。
自分が文を渡しに行った時はまだ何もなさそうだった、が。

(あー…旦那がいないの我慢してもらって、留守番させればよかった)


*

ひゅん、と鋭く冷たい刃が顔の横に突き刺さった。
後ろは壁、前は石田さんだがときめきの要素など1ミクロンもない。あってたまるか!

「貴様、裏切るか…」
「…!」

怖い、殺される、といったネガティブな考えに頭を支配されて何も言葉が出てこない。助けて、幸村さん。

「三成、落ち着け。七海も怖がっている。話すもんも話せんだろう」
「チッ…」

これはやばいぞ、と改めて自分の置かれた状況を確認する。
徳川さんの宥めで、一時的に石田さんも引いてくれたが、所詮気休め。この死活問題はバリバリの未解決だ。

「あ、の…徳川さん」
「ん、どうした?」

とりあえず、気性の荒い石田さんルートを選んだらDead-end率99.9%だ。殺される気しかしない。
ここはまだ未知数だが、温厚そうな徳川さんに賭けるしか選択の余地はない。

徳川さんなら本当のことを分かってくれる…はず!

「実は私…真田幸村さんが好きなんです。
でも、やむ終えず見合いの候補になって…あの、すみません」

その場にへたりと正座をして、出来るだけ物悲しい感じで事実を告げる。仏頂面の石田さんと、無表情の徳川さんは黙ってそれを聞いていた。

沈黙が息苦しい。
酸素が入ってこない無い感じと、唾が石のように飲み込みづらい変な感じがした。

「そうか、真田のことが…。
残念だな、七海は中々いい女だと思っていたのに」
「へ…」

沈黙を破ったのは、爽やかな笑みを浮かべて私に手を差し延べた徳川さんだ。

「顔を上げてくれ。お前は悪くないだろう」
「いや…え、徳川さん…」
「儂はお前を咎めたりしない。ほら、立て」

い い 人 す ぎ る !

「徳川さああああああん」
「おっ、と。元気だな!」

男前な徳川さんに抱き着いて、私はわんわん喚いた。
自分勝手な私の都合を認めて?くださるなんて!戦国も捨てたもんじゃないね!

「そうだ。どうせ真田もしばらく豊臣にいるんだろう?
ならばその間を儂達と過ごして、それでも真田が良いというなら諦めよう。なあ、三成!」
「…知らん」

何だか妙な事になってしまった。
石田さんは今だに不満げだし、対して徳川さんは期待の眼差しで私の返事を待っている。

「私、幸村さん以外有り得ませんけど…そう、します。お願いします」

深く下げた頭を、徳川さんは笑いながらわしわし撫でた。
よく分からないけど…少しここにいて、幸村さん以外を好きにならない限りは、お見合いは無かったことにしてもらえる…ようだ。
ですよね徳川さあああん!

「ではそうしよう!
これから少しの間よろしくな、七海」
「は、はい!」

こうして私はもうしばらく豊臣様にお世話になることになった、のだが。

「…」

とりあえずはこのデストロイヤー・鬼畜・アーモンドから生還する術を私にください。




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