- 「起きろ七海!」 パン!と息が止まりそうな位の勢いで頬を張られ、私は思い切りと目を見開いた。 目の前に広がる見慣れない天井と、確かな頬の感触はまごうことない。 「石田さん、女の子を起こすときは優しく…。これは常識ですよ!?」 「…貴様、何故瞼が腫れている」 まあ、何とも朝から会話のかみ合わないこと。 既に服装を整えた石田さんが目の前に腰を下ろし、私の寝起きの汚い顔をグッと手の平で掴んだ。 ぐうっと寄せられた寝跡のついた頬肉は、さぞかし至近距離で見れたものではないだろう。 「ねっ、ねぶそくじゃにゃいでしゅかねー!」 「何を言っているか分からん」 「じゃあはにゃしてくだしゃい!」 手が離れ、私は口内炎の何倍も痛む頬や口内を摩るように手の平で包む。 「何か気に障ることがあれば私に言え」 「…は、はあ」 石田さんは私の手首を掴んでそう言った。彼は妙に命令するような行為が多い気がする。 …不器用ながらに、気は使ってくださってるんだなあ。 「ありがとうございます、石田さん!」 その点はお礼をしなくてはと思い、しっかり目を見てお礼を言えば照れたようにそっぽを向いてしまった。 彼とお見合いできるお姫様はなかなかに幸せなんじゃないだろうか。 ちょっとだけ、そう思った。 「七海…」 「はい?」 「私は、貴様と…」 「三成ー!!久しぶりだなー!!」 まさに、どーん!という効果音。 …ん?何この状況? そして縁側にてニコニコしている好青年と某機動戦士は誰? 「家…康…! 貴様、肝心な時に邪魔を!」 「何を怖い顔してるんだ、三成! …お、そのお嬢さんが噂の!」 家康。イエヤス。IEYASU。 この人がかの有名な徳川家康さんだと数十秒かけて理解し、つい凝視してしまった。 「某は徳川家康!貴殿の事は秀吉公に聞いているぞ。武田の姫、名は?」 「お、お初にお目にかかります!七海と申します…」 衝動的に深く頭を下げた私だったが、すぐに顔をあげるように声をかけられる。予想外に、気さくな人だ。 「七海か。可愛らしいな」 「は、はぁ」 だむだむと力強く頭を叩く(撫でる?)あたりが何とも男らしい。 徳川さんは不満げに壁にもたれ掛かっていた石田さんの方を向いて声をかけた。 「で、三成は七海を正室にとるのか?側室にとるのか?」 「ちょっ、待っ…うぇえええ?!」 「ははっ七海は面白い奴だなあ!」 話が早過ぎやしませんか。つか嫁に貰っちゃうんかい!こんな私でいいの!?私なんて女の底辺で、綺麗な人は世の中にいっぱい居ますよ!多分! 「だから石田さん!徳川さん! あなた方みたいな偉大な方々は、もっと美人な方をお娶りください!!」 瞳孔開いてんじゃないかと思うほどの勢いでそう叫んだ私に、石田さんは顔をしかめ、徳川さんは快活に笑った。 「七海のような奴、わしは好きだぞ」 「うええ!?会って数分でそんな…!」 いえやすぅ!と、何故か石田さんが怒鳴り、徳川さんと喧嘩をしだす。 があがあ騒ぎ立てる2人をよそに、私は布団をたたみながら思考を巡らせた。 そんなに嫁が欲しいのか!子供が欲しいのか! …確かに武将さんにとって、子孫は大事かもしれない。 ならば幸村さんも子孫が大事。子孫を作るには嫁が必要。私が、嫁に、なれば。 「幸村さんの為なら10人でも産んでやんよ…!!!」 妄想が高ぶって、小声でそう呟いただけだったのに。 今まで煩かったはずの徳川さんと石田さんは急に沈黙して、呆然とした表情で私を見ていた。 や、やべEEEEEE! 「七海、貴様裏切るか…!」 「ひいっ…!?裏切るっていうか、あの、私…!」 あ、死亡フラグたったかも。 - |