- 武田軍、中庭。 「んー…大体こんなもんか」 「佐助」 「あ、旦那。お疲れー」 数十人の兵たちが様々なものを運ぶ中、上田城の城主となる予定の真田幸村は一際動き回っていた。 佐助はいつものような大声を出さず、どことなく大人しい幸村を不思議に思いながらも気づかないふりをして対応をする。 大きな米俵を庭の一角に置き、幸村はふう、と一息ついた。 「そろそろ準備も終わりだし、旦那も中入っていいよ」 「うむ!…して、今日は一段と冷えるな」 「雪も激しくなってきたね」 幸村と佐助が薄く淀んだ空を見上げると、朝より激しく雪が舞っていた。 「旦那ー、風邪引くからはやく入りな」 「うむ」 幸村はどこか空虚のようなもの、そして漠然とした不安に溢れた感情を飲み込み、城のなかに上がった。 * 非常にやばい。劇的にやばい。これは幸村さんに嫌われるのと同じくらいやばい。 「さ、む……!」 閉じ込められた離れ家のなかは、驚くほど冷え込んでいた。暗闇のなか、吐き出された息が白くなっているのが見える。 「幸村さん…助けて」 小さく体育座りをして着物に最大限にくるまる。震えが止まらない。 あれだ、可愛い幸村さんとか想像して自家発電しよう、といかがわしい想像をしているうちに段々睡魔に襲われてきた。ああ、だめ、ねむい。 * 「…」 幸村は自室で何処か落ち着かない思いでいた。空虚、どこか空虚がある。 そして不安がその中に共存している。城主となることへの責任を、受け止め切れていないと幸村は自覚していた。 「七海殿…」 ―そういえば今日は1回しか会っていない。 沈んでいく心地の幸村の脳裏に浮かぶのは、七海の笑顔。 さらに密着したときの思い出などが急速に思い出された。 「は、破廉恥な…!俺は何を…!」 それを振り払うように勢いよく幸村は立ち上がり、うおおお、といつもの勢いには及ばなくとも十分大きな雄叫びを一つ、自室から勢いよく飛び出した。 (心が弛んでいるのだ…!お館様、幸村は、幸村はもっと鍛練を致しまする!) 勢いのまま道場の扉を開けようとして、幸村はふと動きをとめた。数メートル先の離れ家の入り口から、大量の荷物が溢れている。 もちろんそれを面倒臭いから直さない、という幸村ではない。律儀に駆け寄り、一つ一つ戻し始めた。 「ふんっ、…よし」 最後の荷物を寄せ、満足げに息をついた幸村の目に何かぼんやりと白っぽいものが映った。 「?」 幸村はそれに近付き、驚愕した。 * ねむい、雪山展開ですかこれは。 うとうと、思わず横たわってしまった私の耳にガタガタと入り口のほうから音が聞こえてきた。そして数分するとパタパタと足音も近づいてきた。 「…七海、殿?」 暗闇のなかで私を覗き込むその影と声は、幸村さんを彷彿させた。 ぼーっとそれを見ていると、影は慌てたように私を持ち上げて走り出した。 急な展開に頭はついていかず、離れ家から光のある外に出てから私は目をまるくした。 「幸村さん…!」 「七海殿!気分は!?あそこは寒かったでござろう!」 「え、あ、寒かったです!てかお姫様抱っこ、夢か…!?」 幸村さんはひどく焦ったように城に上がって私を畳に降ろした。はっ、ここは幸村さんの部屋…! 私に布団や布をかけているあたり、暖かくしようとしてくれているみたいだ。 「む…他に暖めるためには何をすれば…佐す「幸村さんが私とくっつけば良いんです!」 困ったらオカン!とでもいうかのように佐助さんのことを呼ぼうとした幸村さんの言葉を遮るようにそう言った。正しくは、言ってみた。 「破廉恥な! ………し、しかし、それで七海殿が暖まるならば」 幸村さんは何かを決意したような瞳で、一気に、座っている私を抱きしめた。え、予想外すぎる。 幸村さんの良い匂いと体温が私の熱を高めていき、心臓が飛び出そうだった。 * いろいろ分かりにくかったり、変なところは続きでカバーします、できたら!← |