- 「苦しゅうござる…」 うぅ、と幸村さんが色っぽい喘ぎ声(と私は思う)をあげた。 ああ今日も可愛いマイダーリン! 今の時間を携帯で確認すると朝の5時半。 誰かが運んでくださったらしい私の体は、ご丁寧に幸村さんの隣の部屋に寝かされていた。(深夜徘徊しようとして知った) こんなチャンスを私が逃すはずもなく、すぐさま枕を持って幸村さんの布団に飛び込んだわけですよ!そして幸村さんが鍛錬を始める時間に目が覚めるなんてなんて出来た嫁!(私痛い子じゃないよ!) 兎にも角にも、今は私と幸村さん2人きり!なもんで、幸村さんの上に跨っていたのですよ。 可愛すぎる余り首に抱きついていたら、圧迫感のせいか幸村さんは起きてしまった。(そして冒頭へ) 「おはようございます!幸村さん!」 幸村さんはまだ意識がはっきりしていないらしく、ぼうっとした瞳で私の姿を確認した後、急に覚醒して目を見開いた。人の意識が戻ってくる瞬間初めて見たかも! 幸村さんはあっという間に顔を赤くしてうろたえはじめる。寝起きに跨ったのは確か初めてじゃないはずなのに。初々しいのも可愛い、たまらん。 「あ…う、七海殿…」 「?」 「その、浴衣がっ…う、破廉恥でござるううぅう!」 幸村さんが飛び起きて走り出した先には障子。さらにタイミング良く障子を開けてしまったのは佐助さんだった。 幸村さんに勢いのまま突進された佐助さんは勢いよく廊下の壁に背中からぶつかった。 「佐助さぁぁぁんっ!!」 「すまぬ佐助ぇぇっっ!」 佐助さんはずるりとそのまま座り込んで、涙混じりに私と幸村さんを見上げた。恨めしそうな顔をされても正直困る。 「だから俺様が何したっていうの…もう てか七海ちゃん何でここにいるのさ」 「すまぬ佐助っ…!怪我はないか?」 「(涙目の幸村さんまじ可愛い)」 「はいはい、大丈夫ですから で、旦那一体どうしたの?」 「お、俺は七海殿の…くっ…破廉恥!」 何が破廉恥なのか、今だ分からずしかめっつらな私を見た佐助さんは苦笑しながら私の浴衣に手を伸ばした。佐助さんの手は、どうやら乱れていたらしい浴衣の合わせ目を整えていく。 「七海ちゃんはもっと身嗜みに注意してくれよー 俺がとばっちり食らうんだから」 「へ?」 「浴衣が乱れてたせいで中が見えたんでしょ、旦那?」 「破廉恥でござるううぅうあああ 叱ってくだされお館様ああああ」 なんてこった。知らなかっった!超恥ずかしいな私! 慌てて正座したあと床に頭こすりつけるくらい謝った。 「お見苦しい物を見せてすいやせんした幸村さん! でもこれ成長過程ですから!まだ育ちますから!」 「えー俺様今くらいが好みかも」 「佐助ぇぇっ!!」 「痛っ!もうやだこの仕事!」 * 騒がしい早朝の事件を終え、やっと一息…といくわけにもいかないらしい。武田軍は今日四国を出発するのだ。 チカリンさんと幸村さんが挨拶を終え、私も次に話そうとチカリンさんの方へ。 「やっぱ目ェ赤いな」 「うっ…昨日のことは忘れてください! 私強い子なんですよ、本当は!」 「ハハッ、案外そーかもしれねェな!」 わしゃわしゃ、心地好い感覚もこれで最後かと思うと切なくなった。チカリンさんはじゃあな、と微笑を浮かべる。 「チカリンさん、私お手紙…文っていうのかな 出しますね」 「おぅ、待ってる」 七海様! 馬に乗った小山田さんの声がして、私は慌ててそちらへと走った。 「七海、また会おうじゃねえか!」 「はい、チカリンさんもお元気で!」 さよなら、思いっきり手を振った。 離れていく海が切なくて、私は幸村さんに視界を切り替えた。 (また会いたいな!) * 長いようで短いアニキ編終了! |