- 庭、うるさい。 「お館様! それは誠でございますか!」 「うむ」 「うおおお…!さすがでございます……、お館様あ!」 「幸村あ!」 「お館さぶあ!」 その日は朝から騒がしかった。いや、いつも幸村さんとお館様の殴り愛で騒がしいのだけど。 「佐助!!」 「はいはい」 「…実は頼みがある」 ん゙ー、眠い。 さすがに会話の内容までは聞こえないから、何をそんなに騒いでいるのか私にはサッパリだ。 とりあえず眠い目をこすりながら、汲んできた水で顔を洗う。 冷たい水を、肌が吸い込んで気持ちいい。 「そういえば、夏だなあ…」 太陽が照り付ける。 嗚呼、海に行きたい!そう!幸村さんとバカンスしたい! 「おはよー七海ちゃん」 「うおお佐助さん!?」 「七海ちゃん…日々声が大きくなってるのは俺様の勘違い?」 勘違いですよ! ばしりと佐助さんの肩を叩いて笑う。が佐助さんはよろめきながら顔を歪めた。(あれ、デジャヴュ) 「ねえ私そんなに怪力ですか!?」 「少なくとも普通よりはね それより今から、旦那のとこ行ってくれる?」 「え?幸村さんですか?」 「うん 旦那の部屋…って速っ!」 まるで風のように。 忍、顔負けの速さで去っていく後ろ姿を眺めながら佐助は苦笑いを漏らした。 * 私、桐生七海! 未来のダーリンのお呼びとありゃあ、すぐに駆け付けます! 「っあ、小山田さあああん!」 ふと私は自分が完全寝起き状態なのを思いだし、瞬時に近くにいた小山田さんに飛び掛かった。 「七海様?」 「私、髪大丈夫ですか?! あと顔も服も! 唾液的なもの付着してません?!」 小山田さんは少しだけ笑いながら、私の髪を撫でた。どうやら跳ねていたらしい。 そしてOKを出してくれた紳士・小山田さんに頭を下げて、私はダーリンの部屋の前から声をかけた。 「幸村さあああん 七海です!」 「七海殿!」 スパーンッ、と勢いよく開いた向こうに幸村の笑顔が見えた。今日も一段と可愛い! 「わざわざ来てもらいかたじけない!入ってくだされ」 私を座るように誘導する幸村さん。何だかたどたどしい。体調を聞こうと身を乗り出したとき、何かずしりとしたものを渡された。 「…?」 そっと、布を開くと綺麗な着物。 思わず、綺麗と声が漏れる位に。 「良かったら着てみてくだされ それは七海殿の物にござる」 「私の?」 幸村さんの服みたいに赤い着物。 「某が選んだのだが…七海殿には武田の赤が似合うと思ったゆえ」 にっこり笑った幸村さんに、私は思わず抱き着き- 「はい、そこまで! 旦那気絶しちゃうから離れてー」 いきなりスパンと開いた障子の向こうから、佐助さんの手がのびてきて私の首を掴んだ。 「ぎゃあ! 乙女の首を掴むなんて!」 「佐助ェ!」 「え?何か俺様すごい悪人状態」 * とりあえず着物は部屋の箪笥にしまい、格好は寝巻のままだけど幸村さんと向かい合わせに座った。 「幸村さん、お話とは! とうとう夫婦になるときが…!」 「実は某、お館様の命で明日から四国に参ることになった」 「ちょ、幸村さん無視!?スルースキルあげましたね! ってか四国?四国行くんですか?!」 聞いてない!と泣きながら叫ぶと、今言ったからねーと佐助さんが笑う。幸村さんは神妙な面持ちで、私にまた言葉を紡ぎ始めた。 「七海殿は、城に残りたいでござるか?」 「…やです、行きます! 幸村さんは私の(未来の)夫です! 地の果てまで追いかけまわすのが妻の役目! どうか私にその役目を果たさせてください、幸村さん!」 「それっぽく言ってても、実際ただの変態発言だよねー」 佐助さんが苦笑いしながら私を見てるけど見なかったフリ。 ぽかんとフリーズしていた幸村さんは、突如立ち上がり、私の肩を掴んだ。 「七海殿の熱き魂、某しかと受け取り申した!!」 「幸村さん…!」 「七海殿!」 「幸村さんっ!!」 「七海殿!!」 幸村さああああん! こうして私は幸村さんとゆかいな仲間達とともに、まだ見ぬ地、四国へ旅することになった。 - 着物のくだりいらねぇ! - |