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空は、灰色に濁っていた。
昼とはいえ曇天のため薄暗い部屋のなか、元就と1人の少女は2人きりだった。


「元就くーんっ!
不機嫌極まりない元就くん!!」
「…」

ぷぅ、少女が可愛いらしい鳴き声らしきものをあげてころりと畳に転がる。元就は書物を読みつづけながらも、横目で少女を見やった。
少女は頼んで、元就の兵から大量に貰っていた布で何かを作っている。白く小さな手はたくみに、そしてあっという間に人形を作り上げる。そしてその、美しいと人にいわせるような手には見かけない傷が浮き出ていた。

「心」
「ぎゃあっ元就くん!
いきなり手つかまないでぇえ!」

書物に栞を挟みその傷に触れながら、元就は顔をしかめた。視線に気づいた少女は、軽く冗談でも言うような態度で切っちゃった、と一言。

「かような傷、普通に過ごしていて簡単につかないであろう
貴様の馬鹿な兄の戦に巻き込まれでもしたか」
「ううん、ただアニキとカラクリ作ってたときに間違って自分でやっちゃった」

少女は自分の手に触れていた元就の手に、今度は自分の手を重ねる。

「元就くんの手は、武将とは思えない位綺麗だよ」
「我がそのような言葉で喜ぶと?」
「ううん、怒ると思う
ただでさえ元就くん今日は機嫌悪いもん」


少女は、昔から元就にとって考えが読みにくい人物だった。好いている兄である元親に逆らってまで自分に会いにくるし、よく分からないことも言う。

(分からぬ)

「ほい、雨で拗ねちゃってる元就くんのために、元就てるてる坊主を作ってあげたぞ」

元就の顔の前で、愛想の悪そうな顔のてるてる坊主がゆらゆら揺れる。てるてる坊主の目を書いたせいか、墨のついた少女の鼻を元就は手加減なしに強く摘んだ。
か細い悲鳴と滲んでいく涙が加虐心をそそる、無意識にそんなことを考えほくそ笑んだ元就はフン、と鼻を鳴らした。

「馬鹿め」
「いきなり酷い!」
「阿呆」
「むうぅぅ、こんちきしょうっ」

がぶりと、手首にかじりつくという予想外の行動に出た少女に元就はまた思考を掻き乱されるのだった。


(元就くんが智将なんて嘘みたい)
(黙れ、焼け焦げよ)
(顔あかーい)

*
ツンデレ




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