- 「何をしている 早く起きよ」 聞き慣れた、冷たい声で目が覚めた。目の前に広がるのは屍がごろごろと散らばった静かな戦場と無表情な主。 「 」 口の中が驚く程乾いていた。体は石みたいに動かないし、息は吸いづらい。何より指先から冷えていく感覚に違和感を覚える。 「そんな所で寝ている暇があるのなら、いつものように我の為に働け」 はい、元就さま。 そう返事がしたくて声を出そうと試みたけれど、吐き出されたのはか細い呼吸音。 (声が出ない) 頬に触れる土と、鉄の臭い。その鉄臭さはどうやら自分からしているようだ。ゆっくり手を動かして腹にかざすと、ぬるりと鉄がこびりつく。 -嗚呼、死ぬんだ、私。 今だ私を見下ろして動かない元就様。最後に、最後だから1つ聞きたいことがあった。だから、声を絞り出す。 「 」 ほんの微かにしか音にならない声。 「わ、た…しの なま、え」 ごぷり、鉄がまた溢れた。 元就様は眉を寄せて私の隣に膝をつくと、口から零れる鉄臭い液を指で掬う。そして、静かに呟いた。 「心」 その一言に頬が緩んだ。うれしい、うれしいな。 「散りゆく捨て駒共の名前など、我は覚えていない」 「しかし、貴様は-」 「貴様は、捨て駒ではない 我の…」 視界が霞む。体が冷たい。 「逝くでない…心」 (お慕いしておりました) * |