- 「東京ってさ、本当に面白いよね」 臨也が突然、ぽつりと呟いた。 何かと思い、私は裁縫をしながら臨也の方をみた。 「例えば、黒いファーコートの胡散臭い男と男前な金髪バーテンダーが凄まじい喧嘩してる所とかー?」 冗談混じりで言うと、臨也はこちらへやって来て椅子に座っていた私の首に腕を回した。 「名前、喧嘩売ってる?」 「まさか!」 こんなやつに一般人が喧嘩を売ったら、多分平常じゃいられない。 プツリと黒い糸を切って、臨也にコートを渡す。 今日喧嘩で破けたところを頼まれて縫っていたのだ。 「東京、ねえ… 人と便利な場所が多い都市ってとこじゃない?」 「そう、人が多い!ここ重要!」 臨也はいきなり絡めていた腕を外すと、楽しそうにパソコンデスクに寄り掛かった。 あ、この様子はテンション上がってるな。 「人間はおもしろい!まるで駒みたいでさ 少しだけ言葉をかけると、操られたように俺を信用する」 「…なんかそれ、私も駒っていわれてるみたい」 微妙に不快感を露にして言えば、くつくつっ笑った臨也はまた私の方へやって来て横に1つに結んだ髪をするりと触る。 何がしたいの、臨也を横目で見るとにやにや笑っている。 ああ今日は本当に機嫌いいなあ。 「名前が駒なんて馬鹿な! 池袋をチェス盤だとしよう セルティや帝人君達が駒 俺が駒を動かすプレイヤーなら、君は見物客、いや傍観者だ」 ちゅ、髪にキスをされる。 キザだなあ、まあ顔は良いから許せるんだけど。 「そうだね… 傍観者、か」 悪人の横で口を出さない私も、悪人なんだろうか。 それって巻き込まれてない? 「ま、私は悪戯好きな彼氏を見守ってるだけの…しがない女子高生ですから」 そう言うと次に降ってきたのは臨也の笑顔と唇へのキスだった。 * |